ゴミ屋敷を売却したい|片付けずに売る方法と行政の限界
玄関を開けると足の踏み場がない。
親の家がいつの間にかそうなっていた、あるいは自分の家がそうなってしまった。
近所から苦情が来ている。
そんな状態の家でも売れるのか、と考えている方は少なくありません。
本記事では、いわゆるゴミ屋敷を売却するときに何が起きるのかを、環境省の全国調査などの公的資料をもとに整理します。
結論を先に言えば、片付けなくても売れます。
ただし「行政が撤去してくれるのを待つ」という発想は、多くの場合うまくいきません。
その理由から説明します。
ゴミ屋敷は行政が片付けてくれるのか|期待しないほうがいい
まず、多くの方が誤解している点です。
ニュースで行政代執行の映像を見た記憶から、「限界まで放置すれば役所が撤去してくれる」と考える方がいます。
実態は違います。
環境省が全国1,741市区町村を対象に実施した調査(令和6年度、回答率100%)によれば、ゴミ屋敷に対応する条例を制定している市区町村は90(全体の5.2%)にとどまります。
1,589市区町村は「制定予定なし」と回答しています。
つまり、大半の自治体にはゴミ屋敷を直接対象とする条例そのものがありません。
ゴミ屋敷条例の制定状況(全国1,741市区町村)
| 状況 | 市区町村数 | 割合 |
|---|---|---|
| 制定予定なし | 1,589 | 91.3% |
| 制定済み | 90 | 5.2% |
| 制定検討中 | 59 | 3.3% |
| 制定予定あり・廃止済み | 3 | 0.2% |
出典:環境省「令和6年度『ごみ屋敷』に関する調査報告書」(令和7年3月、調査時点:令和6年11月末)
さらに、条例がある90市区町村においても、直近5年間で行政代執行が行われたのはわずか1件です。同じ期間の「調査」541件、「助言・指導」391件と比べると、行政の対応は指導や支援が中心で、強制的な撤去はほとんど行われていないことが分かります。
代執行が使われない理由も、自治体自身の言葉で記録されています。
総務省行政評価局の調査に対し、市区は「代執行を行っても、居住者に堆積物を排出する意思がない限り、再発してしまう可能性が高く、居住者との関係を悪化させるだけとなりかねない」「代執行に係る費用について、居住者からの回収可能性を考慮する必要もある」と説明しています。
強制的に運び出しても、また溜まる。
そして費用は回収できない。
だから使われないという構図です。
そして仮に行政が撤去に関与した場合でも、費用が無料になるわけではありません。
撤去にあたっての費用負担は本人負担が50.9%と最も多く、市区町村負担は20.5%にとどまります。
待っていれば誰かがタダで片付けてくれる、という状況ではないということです。
行政が動けない理由|「占有者の意思」の壁
ここが、ゴミ屋敷問題の核心にあたる部分です。
他人から見れば明らかにゴミでも、法律上「廃棄物」に当たるかどうかは自動的には決まりません。環境省の通知「行政処分の指針について」では、廃棄物に該当するかは、物の性状・排出の状況・通常の取扱い形態・取引価値の有無・占有者の意思を総合的に勘案して判断するとされています。
この5要素のうち、実務で決定打になっているのが占有者の意思です。環境省が集めた102の判断事例では、廃棄物と判断された事例において、最終的な判断で最も重視された項目が「占有者の意思」(47件)でした。
裏を返せば、本人が「これは有価物だ、財産だ」と主張している間は、行政は簡単に廃棄物と断定できません。
実際の調査でも、自治体から「原因者がごみと認めないことや、資力がないことがほとんど」「本人が『ごみ』と認めなければ直接的な措置は困難」といった声が挙がっています。
古物商の許可を持つ人物のケースで、排出ルートの計画があったため有価物と判断された事例も報告されています。
総務省行政評価局の調査では、この構造がより具体的に示されています。
未解消の119事例のうち約3割(31事例)が、居住者が堆積物を有価物と主張して排出の意思を示さないケースでした。
中には、ごみ集積場から収集した物や、第三者に不法投棄された物まで「自らの財産」と主張して撤去を拒んでいる事例も報告されています。
つまり、家族が「早く片付けさせてほしい」と役所に頼んでも、本人が拒んでいる限り行政の指導には限界がある、という構造です。ここを理解しておかないと、何年も待つことになります。
ゴミ屋敷だったことに告知義務はあるか
売却の実務に移ります。
ゴミが積み上がっている状態そのものは、引き渡し時に撤去されて解消されるなら、それ自体を告知し続ける必要はありません。
問題になるのは、ゴミによって建物や周辺に生じた結果のほうです。
売主が知っているのに伝えなければ、引き渡し後に契約不適合責任を問われることになりかねません。契約不適合とは、引き渡された物が契約の内容に適合していない状態を指し、買主は履行の追完(民法第562条)、代金の減額(同第563条)、損害賠償(同第415条)を求めることができます。
ゴミ屋敷で告知の対象になりやすい事項
| 事項 | 告知の考え方 |
|---|---|
| 床・柱の腐食、雨漏り | 建物の欠陥として告知の対象。知っていれば伝える |
| 害虫・ねずみの発生 | 駆除しても発生していた事実は伝えるのが安全 |
| しみついた臭い | 清掃で取り切れない場合は建物の状態として告知 |
| 近隣とのトラブル・苦情 | 係争や申入れが続いている場合は伝える |
| 室内で人が亡くなった場合 | 特殊清掃が行われたときは告知の対象になり得る |
出典:民法第562条〜第566条、国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」、同「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」をもとに整理
告知は、実務上物件状況等報告書(告知書)という書面に記入する形で行います。
判断に迷う事項は、隠さず不動産会社に伝えたうえで、記載するかどうかを相談するのが安全です。
告知義務の範囲全般は「事故物件は売れる?告知義務はいつまで必要か」で扱っています。
ゴミ屋敷を売却する3つの方法|片付けずに売る選択肢もある
ゴミ屋敷の売却には、大きく3つの進め方があります。
1. 片付けてから仲介で売る
室内が見える状態になるため、一般の買主に向けて売り出せます。
価格は通常の中古住宅に近づきます。
ただし片付けが先行するため、費用と時間が先に出ていきます。
本人が拒んでいる場合は、そもそもこの選択肢を取れません。
2. ゴミがある状態のまま買取業者に売る
買取業者は撤去費用を見込んだ価格で買い取ります。
片付け費用を自分で払わずに済み、決済まで数週間で進むこともあります。
一方、価格は仲介より下がります。
買取価格の水準は「仲介と買取どっちがいい?違いとメリット・デメリット」で整理しています。
3. 解体して土地として売る
建物の傷みが激しく、清掃しても使えない場合の選択肢です。ゴミの撤去費用に加えて解体費用がかかりますが、土地として評価されるため買主の幅は広がります。
なお、家財や生活用品を残したまま売る場合の扱いは、費用の内訳を含めて「残置物があっても家は売れる?処分費用と現状渡しの注意点」で詳しく整理しています。
相続した家がゴミ屋敷だった場合の注意点
親が亡くなり、実家がゴミ屋敷になっていた、というケースは少なくありません。この場合、片付けに着手する前に確認すべきことがあります。
相続放棄を検討している場合、遺産である家財を処分すると単純承認とみなされ、放棄ができなくなる可能性があります(民法第921条)。借金の有無が分からないうちに「とりあえず片付けよう」と手を付けると、負債まで引き継ぐことになりかねません。
また、相続した不動産の名義変更は2024年4月から義務化されており、取得を知った日から3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象になります。
売却するにも、まず名義を相続人に移す必要があります。
詳しくは「相続登記をしないと不動産は売れない?義務化と手続き」「相続放棄した家はどうなる?売却できるのか」をご覧ください。
本人が片付けを拒んでいるときの進め方
家族から見て最も苦しいのが、本人が同意しないケースです。
環境省の調査でも、自治体が挙げた課題の第1位は「原因者への指導・支援方法」(73.3%)でした。
行政ですら手詰まりになっている領域です。
同調査には「ごみ屋敷は生活環境を害する問題として苦情、相談が寄せられるが、実際上は福祉、健康上の課題や経済上の問題であることが多い」という自治体の声も記録されています。
実務的な手がかりとして、条例を持つ自治体の25市区町村は措置として「支援」を規定しており、生活保護の案内、介護サービスの導入、廃棄物の収集・運搬の支援といった内容が挙げられています。また、高齢者のごみ出し支援制度の対象にゴミ屋敷の居住者を含めている自治体が162市区町村あります。
片付けを迫るより、地域包括支援センターや自治体の福祉窓口に相談するほうが動くことがあります。所有者本人が売却に同意していない限り不動産は売れませんので、まず本人の状況を動かすところからになります。
ゴミ屋敷を放置するとどうなるか
売却も片付けもせず放置した場合、いくつかのリスクが積み上がります。
建物が空き家であれば、「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、管理不全空家等や特定空家等に指定される可能性があります。指定されて勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例(税額が最大6分の1に軽減される措置)の対象から外れ、税負担が増えます。
また、火災のリスクがあります。
環境省の調査でも、ゴミ屋敷の起因要素として「火災発生の恐れ」「物の崩落の恐れ」が挙げられています。
近隣に延焼すれば、責任問題は売却どころではなくなります。
時間が経つほど、堆積物は増え、建物は傷み、本人の年齢も上がります。早い段階のほうが選択肢は多く残ります。
ゴミ屋敷の売却でよくある質問
Q. ゴミを片付けずに売ることはできますか。
できます。
買取業者は撤去費用を織り込んだうえで買い取るため、ゴミがある状態のまま引き渡せる場合があります。
仲介の場合は、買主との合意があれば残したまま引き渡すことも可能ですが、一般の買主に対しては現実的でないことが多く、実務では買取が選ばれやすい選択肢です。
Q. 役所に相談すれば撤去してもらえますか。
ゴミ屋敷を対象とする条例があるのは全国で90市区町村(5.2%)にとどまり、条例がある自治体でも直近5年間の行政代執行は1件です。
撤去に関与した場合でも費用は本人負担が最も多く(50.9%)、無料で片付くわけではありません。
ただし福祉的な支援や収集の相談には応じてもらえることがあるため、まず自治体の窓口に相談する価値はあります。
Q. 親が「捨てるな」と言って聞きません。強制的に片付けられますか。
所有者本人の意思に反して家財を処分すると、後で損害賠償を求められるおそれがあります。
行政ですら、本人が「有価物だ」と主張している間は廃棄物と断定しにくいのが実態です。
地域包括支援センターや自治体の福祉窓口に相談し、本人の生活課題そのものに働きかけるほうが結果的に早いことがあります。
Q. ゴミ屋敷だったことを買主に伝える必要はありますか。
ゴミが撤去されて解消していれば、堆積していた事実そのものを常に告知しなければならないわけではありません。
ただし、床や柱の腐食、取り切れない臭い、害虫の発生、近隣とのトラブルなど、引き渡し後も残る事項は告知の対象です。
判断に迷うものは不動産会社に伝えたうえで相談してください。
Q. 相続した実家がゴミ屋敷でした。まず何をすべきですか。
片付けに手を付ける前に、借金の有無を確認してください。
相続放棄を検討している段階で家財を処分すると、単純承認とみなされ放棄できなくなる可能性があります(民法第921条)。
放棄しないと決めた後は、名義を相続人に移す相続登記が売却の前提になります。
Q. 空き家のまま放置すると税金は上がりますか。
上がる場合があります。
管理不全空家等や特定空家等に指定され勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例の対象から外れ、税負担が増えます。
ゴミの堆積は指定の判断材料になり得ます。
まとめ|ゴミ屋敷は片付けずに売る方法から検討する
ゴミ屋敷でも、片付けないまま売ることはできます。買取業者が撤去費用を見込んだ価格で引き取る形が、費用を先に用意できない場合の現実的な選択肢です。
一方で、「行政がそのうち片付けてくれる」という期待は、数字の上では裏切られます。
条例があるのは全国で5.2%、代執行は直近5年で1件、費用は本人負担が半数。
待っても状況は動きません。
本人が片付けを拒んでいる場合は、説得や強行ではなく、福祉の窓口に相談するほうが道が開けることがあります。
放置している間も建物は傷み、税負担のリスクは積み上がります。
まずは今の状態のまま査定を受けて、いくらで手放せるのかという事実を把握するところから始めてみてください。
出典・参考情報
- 環境省「令和6年度「ごみ屋敷」に関する調査報告書」(令和7年3月、全国1,741市区町村・回答率100%)
- 環境省「行政処分の指針について」(令和3年4月14日付け環循規発第2104141号)廃棄物該当性の判断(物の性状・排出の状況・通常の取扱い形態・取引価値の有無・占有者の意思)
- 総務省行政評価局「「ごみ屋敷」対策に関する調査 結果報告書」(令和6年8月)
- 民法 第415条(債務不履行による損害賠償)、第562条〜第566条(契約不適合責任)、第921条(法定単純承認)
- 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(不動産の売主等による告知書の提出について)
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」(管理不全空家等・特定空家等)
※条例の制定状況や措置の件数は令和6年11月末時点の調査結果です。
お住まいの自治体の制度は個別にご確認ください。
廃棄物該当性の判断は個別の事案ごとに行われるものであり、本記事の記載は一般的な整理です。
個別の対応については、自治体の窓口または不動産会社にご相談ください。
