旧耐震の家は売れる?耐震補強せずに売る方法と3000万円控除
親から相続した実家が昭和50年代の建物だった。
あるいは自宅を売ろうとして「旧耐震ですね」と言われた。
耐震補強に何百万もかかると聞いて、そこまでして売るべきかと迷っている方は多いと思います。
本記事では、旧耐震基準の家を売るときに何が起きるのかを、税制と住宅ローンの両面から整理します。
結論を先に言えば、耐震補強せずに売る道はあります。
しかも2024年(令和6年)の改正で、相続した実家の場合は選択肢が一つ増えました。
まずは「なぜ旧耐震だと安く買い叩かれるのか」という仕組みから説明します。
旧耐震と新耐震の境目は2つある|昭和56年5月31日と昭和57年1月1日
最初に、ここを整理しないと話が噛み合いません。旧耐震をめぐる日付は2つあり、使う場面が違います。
混同しやすい2つの日付
| 日付 | 何に使うか |
|---|---|
| 昭和56年5月31日以前に建築 | 売主の税金。相続した空き家の3000万円特別控除の対象になるかの判定 |
| 昭和57年1月1日以降が登記上の建築日 | 買主の税金。住宅ローン控除を無条件で使えるかの判定 |
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」、財務省「住宅ローン控除の見直し(令和4年度改正)」
新耐震基準は1981年(昭和56年)6月1日以降に建築確認を受けた建物に適用されます。このため税制上、売主側の特例は「昭和56年5月31日以前の建築」を旧耐震として扱います。
一方、買主側の住宅ローン控除は登記簿上の建築日付で判定します。
建築確認から完成・登記までのタイムラグを見込んで、区切りが昭和57年1月1日になっています。
同じ「旧耐震」でも、見る書類と日付が違うということです。
旧耐震の物件が売れない・安くなる理由|住宅ローンが通りにくい
本題です。
旧耐震の家が売りにくい最大の理由は、建物が古いことそのものではありません。
買主が住宅ローン控除を使えなくなることです。
令和4年度の税制改正で、中古住宅の築年数要件(耐火住宅25年、非耐火住宅20年)は廃止されました。
代わりに「昭和57年以降に建築された住宅」が対象という基準になりました。
つまり登記上の建築日が昭和57年1月1日以降なら、築何年であっても住宅ローン控除が使えます。
裏返せば、昭和56年以前の建物は対象から外れるということです。買主が控除を受けるには、耐震基準適合証明書などを別途取得する必要があります。
買主の立場で考えると分かりやすいと思います。
同じ価格帯で、片方は10年間の減税が受けられ、片方は受けられない。
しかも旧耐震のほうは、住宅ローンの審査自体が厳しくなる金融機関もあります。
この差が、そのまま価格交渉の材料になります。
「旧耐震だから安くしてほしい」という要求の背景には、こうした具体的な不利益があります。
相続した旧耐震の実家は選択肢が増えた|空き家特例の要件緩和
ここが、この記事で最も伝えたい点です。
相続した実家が昭和56年5月31日以前の建築なら、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」で譲渡所得から最高3,000万円を控除できる可能性があります。旧耐震であることが、この特例では要件そのものになっています。
従来、この特例を使うには売主が引き渡し前に耐震改修を済ませるか、取り壊して更地にする必要がありました。売主が先に数百万円を負担しなければならず、それが使いにくさの原因でした。
それが令和6年1月1日以後の譲渡から変わりました。売買契約に基づいて、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを行った場合も、特例の対象に加わったのです(国税庁No.3306の要件ハ)。
空き家特例が使える3つの売り方
| 型 | 内容 | 工事をする人 |
|---|---|---|
| イ | 耐震改修してから、家屋(と敷地)を売る | 売主(引渡し前) |
| ロ | 取り壊してから、更地を売る | 売主(引渡し前) |
| ハ | 家屋のまま売り、翌年2月15日までに耐震改修または取壊しが完了 | 買主でも可 令和6年1月1日以後の譲渡限定 |
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(令和7年4月1日現在法令等)
実務上の意味は大きいと思います。売主が解体費用を立て替えることなく、古家付き土地として現状のまま売っても、3000万円控除が使える可能性が出てきたということです。
ただし注意点があります。
ハの型は期限が動きません。
譲渡した年の翌年2月15日という固定日です。
12月に引き渡した場合、買主が工事を終えるまで2か月ほどしかありません。
買主が期限までに工事を完了しなければ、特例は使えなくなります。
売買契約書に工事の実施と期限を明記しておくことが前提になります。
空き家の3000万円特別控除の主な要件
控除額が大きいぶん、要件は細かく決められています。主なものを挙げます。
空き家特例の主な要件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建築時期 | 昭和56年5月31日以前に建築 |
| 建物の種類 | 区分所有建物登記がされている建物でないこと(分譲マンションは対象外) |
| 居住状況 | 相続開始の直前において被相続人以外に居住していた人がいなかったこと |
| 相続後の用途 | 相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住の用に供されていないこと |
| 期限 | 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ令和9年12月31日までの譲渡 |
| 売却代金 | 1億円以下(分割売却や他の相続人の売却分も通算して判定) |
| 控除額 | 最高3,000万円。ただし令和6年1月1日以後の譲渡で取得した相続人が3人以上の場合は2,000万円 |
| 売却相手 | 親子や夫婦など特別の関係がある人への売却でないこと |
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(措法35)
見落とされやすいのが「貸付けの用に供されていないこと」です。
空き家のままにしておくのがもったいないからと、相続後に人に貸してしまうと、この特例は使えなくなります。
売却を考えているなら、空けたままにしておく必要があります。
なお、名前の似た制度に「マイホームを売ったときの3000万円特別控除」がありますが、こちらは自分が住んでいた家を売る場合の制度で、別物です。
旧耐震かどうかは関係なく、要件も異なります(詳しくは「3000万円特別控除とは|マイホーム売却で使える節税制度」)。
相続した実家に使えるのは、本記事で扱っている空き家特例のほうです。
また、この特例は取得費加算の特例とは選択制で、両方は使えません。
どちらが有利かは「相続税の取得費加算の特例|相続不動産を売るなら3年10ヶ月以内」で整理しています。
相続した不動産の売却全体の流れは「相続した不動産を売却する流れ|手続き・税金・注意点」をご覧ください。
旧耐震は耐震補強してから売るべきか|3つの売り方で比較
自分が住んでいた家を売る場合など、空き家特例が使えないケースの判断です。
耐震改修には費用がかかります。
改修後に耐震基準適合証明書を取得できれば、買主は住宅ローン控除を使えるようになり、売却価格も上げやすくなります。
しかし、その費用を上回るだけ価格が上がるとは限りません。
実務でよく選ばれるのは、次のような整理です。
そのまま「古家付き土地」として売る
建物に価値を付けず、土地として売る考え方です。
買主が解体を前提に検討するため、建物の状態は問題になりにくくなります。
解体費用は買主の予算に織り込まれるため、そのぶん価格は下がりますが、売主が先に費用を出す必要はありません。
解体して更地にしてから売る
買主の幅は広がります。
ただし解体費用が先に出ていくうえ、更地にすると固定資産税の住宅用地特例が外れ、翌年から税額が上がる点に注意が必要です。
売れるまでの期間が読めない場合、この負担は無視できません。
買取業者に売る
業者は自ら改修や解体を行う前提で買い取るため、耐震性を理由に断られることは少なくなります。
価格は仲介より下がりますが、時間と手間はかかりません。
仲介との比較は「仲介と買取どっちがいい?違いとメリット・デメリット」で扱っています。
旧耐震であることの告知は必要か
旧耐震基準であること自体は、建築時期から誰でも分かる事実です。重要事項説明でも建築時期は説明されます。
問題になるのは、売主が具体的な不具合を知っている場合です。
過去に耐震診断を受けて結果が悪かった、地震で壁にひびが入った、傾きがある、といった事実を知りながら伝えなければ、引き渡し後に契約不適合責任を問われることになりかねません。
買主は履行の追完(民法第562条)、代金の減額(同第563条)、損害賠償(同第415条)を求めることができます。
知っている事実を隠さないことが基本です。
免責特約を付けても、知っていて告げなかった事実については責任を免れません(民法第572条)。
告知義務の考え方全般は「事故物件は売れる?告知義務はいつまで必要か」でも扱っています。
旧耐震の家を放置するリスク|特定空家と固定資産税
空き家のまま置いておくと、「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、管理不全空家等や特定空家等に指定される可能性があります。勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例が外れ、税負担が増えます。
加えて、相続した実家の場合は期限があります。
空き家特例は相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。
この日を過ぎると、3,000万円の控除は使えません。
制度自体の適用期限も令和9年12月31日までです。
迷っている間に期限が来ると、税額が数百万円単位で変わることがあります。
旧耐震の物件の売却でよくある質問
Q. 耐震補強しないと売れませんか。
売れます。
古家付き土地として売る、解体して更地で売る、買取業者に売るといった方法があります。
相続した実家であれば、令和6年1月1日以後の譲渡から、買主が翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを行う形でも空き家特例の対象になります。
売主が先に工事費を負担しなくてよい選択肢が増えました。
Q. 昭和56年と昭和57年、どちらが基準なのですか。
場面によって違います。
売主の空き家特例は「昭和56年5月31日以前に建築されたこと」が要件です。
買主の住宅ローン控除は「登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降」であれば無条件で対象になります。
どちらの話をしているのかで、見る日付が変わります。
Q. 旧耐震だと買主は住宅ローンを組めませんか。
組める場合もありますが、金融機関によって扱いが分かれます。
融資期間が短くなる、担保評価が下がるといった条件が付くことがあります。
また住宅ローン控除については、耐震基準適合証明書などがなければ対象になりません。
買主の資金計画に影響するため、結果として価格交渉の材料になります。
Q. 相続した実家を賃貸に出してから売っても、空き家特例は使えますか。
使えません。
相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住の用に供されていないことが要件です。
一度でも貸すと対象外になります。
売却を検討しているなら、空けたままにしておく必要があります。
Q. マンションでも空き家特例は使えますか。
区分所有建物登記がされている建物は対象外です。
分譲マンションは通常これに該当するため、使えません。
旧耐震のマンションを相続した場合、この特例は前提から外れます。
Q. 兄弟3人で相続した場合、控除額はどうなりますか。
令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続または遺贈により取得した相続人が3人以上の場合、控除の上限は1人あたり2,000万円に縮小されます。
2人以下なら3,000万円のままです。
誰が取得するかによって税額が変わるため、遺産分割の段階から検討する余地があります。
まとめ|旧耐震は補強せずに売る方法もある
旧耐震の家が安く見られるのは、建物が古いからというより、買主が住宅ローン控除を使えず、融資条件も不利になるためです。この不利益がそのまま価格に反映されます。
一方、売主側から見ると、旧耐震であることは相続した実家の場合3000万円控除の要件そのものです。
そして令和6年1月1日以後の譲渡からは、買主が翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを行う形でも認められるようになりました。
売主が先に工事費を負担せずに済む道が開けています。
ただし期限があります。
相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、制度自体も令和9年12月31日まで。
耐震補強にいくらかけるかを悩んでいる間に、控除の期限が過ぎるほうが損失は大きくなり得ます。
まずは建築時期と相続開始日を確認し、どの型が使えるのかを含めて相談してみてください。
出典・参考情報
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(令和7年4月1日現在法令等/措法35)
- 国税庁「No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」
- 財務省「住宅ローン控除の見直し(令和4年度改正)」(既存住宅の築年数要件を廃止し、昭和57年以降に建築された住宅を対象とする)
- 民法 第415条(債務不履行による損害賠償)、第562条〜第566条(契約不適合責任)、第572条(担保責任を負わない旨の特約)
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」(管理不全空家等・特定空家等)
※税制の適用可否は個別の事情により異なります。
空き家特例の適用には市区町村長が交付する「被相続人居住用家屋等確認書」など所定の書類を添えた確定申告が必要です。
住宅ローンの取扱いは金融機関により異なります。
個別の判断については、税務署または税理士、不動産会社にご確認ください。
