相続した不動産を売却する流れ|手続き・税金・注意点

親が亡くなり、実家だけが手元に残った。
住む予定はないけれど、何から手をつければいいのか見当がつかない。
相続の手続きも不動産の売却も初めてで、誰に何を相談すればいいのかも分からず、時間だけが過ぎていく。
そんな戸惑いを抱えている方は少なくありません。
相続した不動産の売却は、通常の売却の前に「相続の手続き」という工程が加わる分だけ、やることが多く見えてしまいます。
ただ、順序さえ押さえてしまえば、決して迷路のような話ではありません。
しかも税金の面では、相続した不動産だからこそ使える有利な特例もいくつか用意されています。
ここでは、遺言の確認から売却の完了まで、全体の流れと押さえておきたい期限を順を追って整理していきます。
相続した不動産を売却する流れ|5ステップで整理
相続した不動産の売却は、遺言書の確認、相続人と財産の確定、遺産分割協議、相続登記という4つの手続きを経てから、ようやく通常の売却に進みます。それぞれの工程には注意すべき点があり、順番を飛ばすとやり直しになることもあります。
| 1 | 遺言書の有無を確認する あれば原則としてその内容に従う |
| 2 | 相続人と相続財産を確定する 戸籍を集めて相続人を確定。借金も含めて財産を洗い出す |
| 3 | 遺産分割協議をする 誰がその不動産を取得するかを相続人全員で決める |
| 4 | 相続登記をする 名義を変えないと売却できない。2024年から義務化 |
| 5 | 売却する ここから先は通常の不動産売却と同じ |
遺言書があれば、その内容が優先されます。
なければ相続人全員で話し合うことになり、名義を変える相続登記を済ませない限り、そもそも売却の手続き自体が始められません。
全体としては半年から1年ほどかかることも珍しくなく、腰を据えて取り組む必要があります。
最初の一歩は遺言書の有無の確認です。見つからない場合でも慌てず、次の相続人・財産の確定から進めていきましょう。
相続した不動産の売却で期限のある手続き
相続の手続きには期限が定められているものがあり、最も早いのは相続放棄・限定承認の3か月以内です。期限を把握しておくことで、何から優先して動けばよいかが見えてきます。
| 期限 | 手続き |
|---|---|
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認(相続を知った時から) |
| 4か月以内 | 準確定申告(被相続人に所得があった場合) |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付 |
| 3年以内 | 相続登記の申請(取得を知った日から。2024年4月から義務化) |
| 3年10か月以内 | 取得費加算の特例を使う場合の売却期限(相続税の申告期限の翌日から3年) |
出典:民法第915条(相続放棄)、相続税法第27条(申告期限)、不動産登記法第76条の2(相続登記)、租税特別措置法第39条(取得費加算)にもとづく。
もっとも短いのが相続放棄の3か月です。
借金のほうが多いようであれば放棄を検討することになりますが、この期間を過ぎてしまうと原則として放棄できなくなります。
悲しみの中で慌ただしく感じるかもしれませんが、まずは財産と負債をひととおり把握することが先決です。
相続放棄の3か月は待ってくれません。財産と負債の洗い出しだけでも先に進めておくと安心ですよ。
ステップ2|相続人と財産を確定する
相続人と財産の確定では、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を集め、法定相続人を確定させた上で、不動産・預貯金・借金まで含めた財産の全体像を洗い出します。この作業を飛ばして遺産分割協議を進めることはできません。
戸籍集めは、転籍を繰り返していた方だと複数の自治体への請求が必要になり、1〜2か月ほどかかることもあります。
ここで、前婚の子や認知した子など、家族が把握していなかった相続人の存在が判明することもあります。
想定外ではありますが、その方も含めて遺産分割協議を進める必要があります。
財産の把握では、不動産だけでなく預貯金や有価証券、そして借金も忘れずに洗い出してください。負債のほうが多いと分かれば、相続放棄という選択肢も視野に入ってきます。
戸籍集めは時間がかかりがちです。相続放棄の期限も意識しながら、早めに着手することをおすすめします。
ステップ3|遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人全員で誰が何を取得するかを話し合う手続きのことです。全員の合意が前提となり、一人でも反対すれば成立しません。
不動産は現金のようにきれいに分けられない財産です。
そのため、一人がそのまま取得する現物分割、売却して現金化してから分ける換価分割、一人が取得して他の相続人に金銭を支払う代償分割といった方法が用意されています。
売却して分けるのであれば、換価分割という形になります。
遺産分割の3つの方法
不動産をそのまま一人が取得する
一人が取得し、他の相続人に金銭を支払う
売却して現金化し、相続人で分ける
「住みたい」「売りたい」「思い出があるから残したい」。
兄弟間でこうした意見が割れることも珍しくありません。
それぞれの立場に事情があるからこそ話し合いが難航しやすいのですが、進め方のコツは「兄弟で相続した実家を売却してお金を分ける方法|遺産分割」で解説しています。
共有名義にするのは慎重に判断する
決めきれないからとりあえず共有名義にする、という選択は避けたほうが無難です。
共有不動産を売るには共有者全員の同意が必要になり、さらに相続が発生すると権利者がどんどん増えて、収拾がつかなくなってしまうことがあります。
「共有名義の不動産、自分の持分だけ売れる?」もあわせてご参照ください。
共有名義は「とりあえず」で選ばれがちですが、後々の負担が大きくなりやすい選択です。決断を先送りにしすぎないよう気をつけてくださいね。
ステップ4|相続登記
相続登記とは、亡くなった方の名義になっている不動産を、相続人の名義に変更する手続きのことです。この登記を済ませない限り、不動産を売却することはできません。
相続登記は2024年4月から義務化され、取得を知った日から3年以内の申請が求められるようになりました。過去に発生した相続も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。
費用は、登録免許税が固定資産税評価額の0.4%、司法書士報酬が5〜15万円程度が目安です。
詳しくは「相続登記をしないと不動産は売れない?義務化と手続き」をご覧ください。
相続登記は義務化されたことで、放置しているとペナルティの対象になる場合もあります。早めに手続きを進めておきましょう。
相続した不動産を売却したときの税金|取得費と特例
相続した不動産を売却する際の税金は、取得費と所有期間を亡くなった方から引き継ぐという点が、通常の売却と大きく異なります。この仕組みを理解しておくと、税負担の見通しが立てやすくなります。
取得費と所有期間は被相続人から引き継ぐ
相続した不動産を売る場合、亡くなった方が取得したときの価格と取得日をそのまま引き継ぎます。相続した日が起点になるわけではありません。
この仕組みは、有利に働くことが多いといえます。親が何十年も前に買った家であれば、所有期間は当然5年を超えているため、売却時の税率は長期譲渡所得の20.315%が適用されます。
一方で、注意しておきたい点もあります。
親が購入したときの売買契約書が見つからないと、実際の取得費を証明できません。
その場合は売却価格の5%しか取得費に計上できず(概算取得費)、税負担が大きく増えてしまいます。
実家に残っている書類は、時間をかけてでも探しておく価値があります。
取得費が分からない場合の計算
※売買契約書がなく実際の取得費を証明できない場合の計算方法。本来の取得費より少なくなり、税負担が増えやすい。
相続税を納めたなら取得費加算の特例
取得費加算の特例とは、納めた相続税の一部を取得費に加算できる制度のことです。使えれば譲渡所得が圧縮され、税額を下げられる可能性があります。
ただし期限があり、相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始から数えると3年10か月以内)に売却することが条件です。詳しくは「相続税の取得費加算の特例|相続不動産を売るなら3年10ヶ月以内」で解説しています。
空き家の3000万円特別控除
自分が住んでいた家ではないため、通常の3000万円特別控除は使えません。ただし、一定の要件を満たす相続空き家には別途「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」が用意されており、要件を満たせば最高3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)を控除できます。
主な要件は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること、被相続人が一人暮らしだったこと、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること、譲渡価額が1億円以下であることなどです。要件がかなり細かいため、該当しそうな場合は税務署や税理士に確認しておくと安心でしょう。
相続不動産の税金は、書類の有無や売却時期によって大きく変わります。特例が使えるか迷ったら、早めに専門家へ相談してみてくださいね。
相続した不動産は売るか、貸すか、持ち続けるか
相続した不動産は、必ずしも売却だけが答えではありません。ただし、判断を先延ばしにすることのコストは意識しておいたほうがよいでしょう。
空き家のまま持ち続けると、固定資産税、火災保険料、そして管理の手間がかかり続けます。管理が不十分で「特定空家」に指定されてしまうと、固定資産税の住宅用地特例が外れ、税額が最大6倍程度になることもあります。
建物は人が住まなくなると、傷みの進み方が早くなる傾向があります。
数年放置しているうちに、本来なら売れたはずのものが売れなくなってしまうケースもあるでしょう。
決めきれない場合でも、まずいくらで売れるのかを知っておくことは、家族での話し合いを進めるうえでの判断材料になります。
迷っている間にも維持費はかかり続けます。結論を急がなくてもいいので、まずは相場を知ることから始めてみてくださいね。
相続した不動産の売却でよくある質問
Q 相続税がかかるかどうか、どう判断しますか?
A 基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える遺産があれば、相続税の申告が必要になります。
相続人が3人なら4,800万円までは非課税で、地方の不動産と預貯金だけであれば基礎控除内に収まることも多くあります。
判断に迷う場合は税理士に相談してください。
Q 相続税の納税資金がありません。
A 不動産を売却して納税資金にあてるのは、一般的によく行われる方法です。
ただし相続税の申告期限は10か月以内のため、売却に時間がかかると間に合わないことがあります。
期限が迫っている場合は、買取という選択肢も検討できるでしょう。
「仲介と買取どっちがいい?違いとメリット・デメリット」をご覧ください。
Q 親の家の権利証が見つかりません。
A 相続登記では、権利証(登記識別情報)は原則として不要です。
戸籍等で相続関係を証明できれば手続きは進められます。
ただし売却時には別途手続きが必要になる場合があるため、司法書士に相談しておくと安心です。
なお、税金の計算に使う購入時の売買契約書は、探しておいたほうがよいでしょう。
Q 遠方に住んでいて手続きに行けません。
A 戸籍は郵送で請求でき、相続登記も司法書士に委任すれば現地に行く必要はありません。
売却についても、媒介契約や決済を郵送や代理人で対応できる場合があります。
ただし、物件の状態確認や残置物の処分については、現地対応が必要になることもあります。
Q 家財道具が残ったままです。
A 残置物があっても売却は可能です。
ご自身で処分する、業者に依頼する、残置物ごと買い取ってもらうといった選択肢があります。
「残置物があっても家は売れる?処分費用と現状渡しの注意点」で解説しています。
Q まず何から始めればいいですか?
A まず取りかかるべきは、遺言書の有無の確認と、財産・負債の把握です。
特に借金の有無は相続放棄の3か月という期限に直結するため、急いで確認しておく必要があります。
並行して、その不動産がいくらで売れそうかを調べておくと、相続人同士の話し合いも具体的に進めやすくなるでしょう。
まとめ|相続不動産の売却は登記と期限から逆算する
相続した不動産の売却は、遺言確認、相続人と財産の確定、遺産分割協議、相続登記を経て、ようやく通常の売却に進みます。全体で半年から1年程度かかると見ておくとよいでしょう。
期限のある手続きが複数存在する点にも注意が必要です。
相続放棄は3か月、相続税の申告は10か月、相続登記は3年(過去の相続は2027年3月31日まで)、取得費加算を使うなら3年10か月以内の売却が条件になります。
この順序を意識して動くことが大切です。
税金面では、取得費と所有期間を引き継ぐため長期譲渡所得になりやすく、要件を満たせば相続空き家の特例や取得費加算も使える可能性があります。一方で、親の購入時の契約書が見つからないと税負担が重くなりやすいため、書類探しはできるだけ早く始めてください。
売るか持ち続けるか、まだ決めきれないという方もいるでしょう。それでも、まずはいくらで売れるのかを知っておくことが、後悔のない判断につながるはずです。
手続きが多くて大変に感じるかもしれませんが、一つずつ順番に進めれば必ず前に進みます。分からないことがあれば、遠慮なく専門家に相談してくださいね。
出典・参考情報
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
- 国税庁「No.4152 相続税の計算」(基礎控除)
- 法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」
- 民法 第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)、第907条(遺産の分割)
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法」
※制度は改正される場合があります。個別の適用可否については税務署・税理士・司法書士にご確認ください。


