共有名義の不動産、自分の持分だけ売れる?

相続した実家が兄弟の共有名義になっている。
離婚したのに家の名義は夫婦共有のまま動かせない。
売りたいと伝えても、他の共有者がなかなかうんと言ってくれない——そんな状況で「自分の持分だけでも先に売ってしまえないだろうか」と考える方は少なくありません。
売却の全体の流れは「不動産売却の流れ|査定から引き渡しまでの7ステップ」で解説しています。
その疑問はごく自然なものです。
結論から言えば、自分の持分だけを売ることはできます。
これは法務省も明記している点です。
ただし、売れることと、それが得策かどうかは別の話です。
単独で売却できる制度上の仕組みと、実際に売却したときに起こりやすいトラブル、そして持分を売る前に検討しておきたい方法まで、順を追って見ていきます。
共有持分だけの売却に他の共有者の同意は要らない
共有名義の不動産であっても、自分の持分だけを売却するのであれば、他の共有者の同意は必要ありません。共有物全体を売る行為と、自分の持分を処分する行為とでは、民法上求められる同意の重さがまったく異なるからです。
民法は、共有物に対してできる行為を、性質ごとに分けて整理しています。
| 行為 | 例 | 必要な同意 |
|---|---|---|
| 変更(軽微でないもの) | 不動産全体の売却、建物の取壊し、農地を宅地に造成 | 共有者全員 |
| 軽微な変更 | 形状・効用の著しい変更を伴わない工事 | 持分の価格の過半数 |
| 管理 | 使用者を決める、短期の賃貸借 | 持分の価格の過半数 |
| 保存 | 修繕、不法占拠者への明渡し請求 | 各共有者が単独で可 |
| 自分の持分の処分 | 持分の売却・贈与 | 単独で可(同意不要) |
出典:民法第251条(共有物の変更)、第252条(共有物の管理・保存)等。令和5年4月1日施行の改正内容を含む。
表の最下段が要点です。
共有物全体を売るには共有者全員の同意が要りますが、自分の持分を売ることは単独で行えます。
持分はあくまで自分自身の財産だからです。
法務省も、相続時に土地を手放す方法を比較する中で、民間売買のメリットとして「共有者がいる場合でも、自分の持分のみ売却可能」と明記しています。相続土地国庫帰属制度が共有者全員での申請を求めるのと対比する形で示されている記述です。
制度上は単独で売却できると分かって、少しほっとされる方も多いのですが、価格や買い手側の現実面もあわせて知っておいてくださいね。
共有持分の売却はトラブルになりやすい|最後の手段にする理由
共有持分だけの売却は、法律上できることと実際にやるべきことが一致しにくい取引です。買い手が限られ、価格は持分割合以上に下がり、しかも影響は自分だけでなく残された共有者にも及びます。
まず、買い手がほとんど見つかりません。
持分だけを買っても、その不動産を自由に使えるわけではないからです。
買主は結局、他の共有者と共有関係に入ることになり、住むにも貸すにも他の共有者との調整が必要になります。
価格も大きく下がります。
持分が3分の1だからといって、価格が全体の3分の1になるわけではありません。
自由に使えない権利には、それ以上の割引がかかるのが実情です。
買い手となるのは、共有持分を専門に買い取る業者が中心になります。こうした業者は買い取った後、他の共有者に持分の買い取りを打診したり、共有物分割請求を行ったりして利益を得る仕組みで動いています。
つまり、あなたが自分の持分を売れば、残された共有者は見知らぬ業者と共有関係を持つことになります。親族間の話し合いだったはずのものが、業者との交渉に置き換わってしまうわけで、これは相手にとって決して軽い出来事ではありません。
「早く縁を切りたい」というお気持ちはよく分かりますが、その一歩が家族関係にしこりを残すこともあります。まずは次の方法を試してみてほしいです。
共有持分を売る前に検討すべき3つの方法
持分だけを売却する前に、まずは共有関係そのものを解消できないかを検討するべきです。優先すべき順に、全員で売る、他の共有者に買ってもらう、共有物分割請求をする、という3つの選択肢があります。
共有持分を売る前に検討する順序
最も高く公平に売れる方法
単独所有化のメリットを提示する
話し合いがまとまらない場合の裁判手続
ここまで検討したうえでの最後の手段
1. 全員で売って現金を分ける
最も高く売れて、最も公平な方法です。
共有物全体を市場で売却し、代金を持分に応じて分けます。
持分だけを売る場合と違い、通常の不動産として売れるため価格が下がりません。
相続の場面での進め方は「兄弟で相続した実家を売却してお金を分ける方法|遺産分割」で詳しく扱っています。
2. 他の共有者に持分を買ってもらう
他の共有者にとって、持分を集約できることは大きな利益になります。
単独所有になれば、その不動産を自由に使えるようになるからです。
第三者に売るより高く買ってもらえる可能性もあるため、まずはここへの打診を検討してください。
3. 共有物分割請求をする
話し合いがまとまらない場合は、裁判所に共有物の分割を求めることができます。分割の方法にはいくつかの種類があります。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 現物分割 | 土地を分筆して分ける。建物には使いにくい |
| 賠償分割 | 共有者の一人(または複数)の所有とし、取得した者が他の共有者に代償金を支払う。令和3年改正で明文化された |
| 競売分割 | 競売にかけて代金を分ける。市場価格より安くなりやすい |
出典:民法第258条(裁判による共有物の分割)。令和3年民法改正により賠償分割が明文化された。
時間と費用はかかりますが、共有関係を法的に解消できる手段として残されています。
いきなり業者への持分売却を考える前に、家族間での話し合いや分割請求の余地がないか、一度整理してみてくださいね。
共有者の所在が分からない場合の売却方法
連絡が取れない共有者がいても、令和5年4月1日施行の改正により、地方裁判所への申立てを通じて解決できる道が開かれています。以前は「連絡が取れないから何もできない」で止まっていた問題です。
法務省の説明によれば、所在等が不明な共有者がいる場合、他の共有者は地方裁判所に申し立て、その決定を得ることで、次のことができるようになりました。
| 残りの共有者の持分の過半数で、管理行為ができる(例:共有者の中から使用者を1人に決める) |
| 残りの共有者全員の同意で、変更行為ができる(例:農地を宅地に造成する) |
| 所在等が不明な共有者の持分を取得したり、その持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡したりできる |
出典:法務省「所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わりました」(民法第251条・第252条・第262条の2・第262条の3等)。裁判所において、持分に応じた時価相当額の金銭の供託が必要になります。
ただし、裁判所において、持分に応じた時価相当額の金銭をあらかじめ供託しておく必要があります。連絡が取れないというだけで諦める必要はなくなりましたが、手続と費用の負担は避けられません。
所在不明の共有者がいるケースは、手続が複雑になりやすいので、早めに司法書士や弁護士へ相談されることをおすすめします。
共有名義のまま放置する危険|相続で持分がさらに増える
共有名義を放置すると、共有者の一人が亡くなるたびに持分がその相続人へ引き継がれ、共有者の数がどんどん増えていきます。「面倒だから、いったんそのままにしておく」という判断こそが、後々問題を大きくする最大の原因になりやすいのです。
子が3人いれば、共有者は1人増えるのではなく3人増えます。
これが繰り返されれば、共有者は10人、20人と膨れ上がり、全員の同意を得ることが現実的に不可能になっていきます。
離婚時に共有名義を清算せずに残した場合にも、同じ問題が起きます(「離婚で家を売るには?財産分与の税金と住宅ローンの注意点」)。
法務省も、相続が発生してから遺産分割がされないまま長期間放置されると、相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有状態となり、遺産の管理・処分が困難になると指摘しています。
そして、遺産分割には期限のルールが加わりました。
被相続人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によって画一的に行うこととされています。
生前贈与や療養看護といった個別事情を主張したいのであれば、10年以内に動く必要があるということです。
遺産分割10年ルールの経過措置
改正法が施行される
原則、法定相続分・指定相続分での画一的な分割になる
施行時に5年超経過していた場合の猶予期限
※この10年ルールは、令和5年4月1日より前に相続が開始した場合にも適用されます。
この10年ルールは、令和5年4月1日より前に相続が開始した場合にも適用されます。ただし、令和5年4月1日の時点で既に相続開始から5年を超える期間が経過していた場合は、令和10年3月31日までの猶予期間が設けられています。
「今はまだいい」と先送りにしているうちに共有者が増えてしまったというご相談は、実際によくいただきます。今が一番動きやすいタイミングだと考えてみてください。
共有持分を売るときの税金|控除は持分ごとに判定する
共有持分を売って利益が出れば、その分は譲渡所得として課税の対象になります。
計算方法自体は通常の不動産売却と変わらず、取得費と譲渡費用を差し引いて求めます(「不動産を売ると税金はいくら?譲渡所得税の計算方法」)。
共有者はそれぞれ自分の持分について申告を行います。
3000万円特別控除も、要件を満たせば共有者ごとに適用できる可能性はあります。
ただし、それぞれが個別に要件を満たし、それぞれが確定申告をする必要がある点には注意してください(「3000万円特別控除とは|マイホーム売却で使える節税制度」)。
共有者ごとに控除の適用可否が変わることもあるので、売却前に税理士へ確認しておくと安心ですよ。
共有持分を売る前に相続登記が済んでいるか確認する
相続した不動産が共有になっている場合は、そもそも相続登記が済んでいるかを先に確認してください。
2024年4月から相続登記は義務化されており、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。
正当な理由なく違反すると、10万円以下の過料が科される可能性があります(「相続登記をしないと不動産は売れない?義務化と手続き」)。
相続登記が未了のままだと売却の話も前に進められません。まずは名義の状態を確認するところから始めてくださいね。
共有持分の売却でよくある質問
Q 他の共有者が反対していても、自分の持分を売れますか。
A 売れます。
共有物全体の売却には共有者全員の同意が必要ですが、自分の持分の処分は単独で行えます。
法務省も、民間売買の特徴として「共有者がいる場合でも、自分の持分のみ売却可能」としています。
ただし買い手が限られ、価格は大きく下がる点には注意が必要です。
Q 持分3分の1なら、売却価格も全体の3分の1ですか。
A そうはなりません。
実際にはそれ以上に価格が下がるのが通常です。
持分だけを買っても不動産を自由に使えず、他の共有者との調整が必要になるため、買主が限られてしまうからです。
全員で売って代金を分けるほうが、手取りは大きくなる傾向があります。
Q 持分を売ると、他の共有者に迷惑がかかりますか。
A 影響はあります。
買主が新たな共有者として加わるため、他の共有者は見知らぬ相手と共有関係を持つことになります。
買い取った業者が持分の買い取りを打診したり、共有物分割請求をしたりすることもあります。
法的には自由にできる行為ですが、関係者への影響を踏まえたうえで判断してください。
Q 共有者の一人と連絡が取れません。もう売れませんか。
A 売れる可能性は残っています。
令和5年4月1日施行の改正により、所在等が不明な共有者がいる場合でも、他の共有者が地方裁判所に申し立てて決定を得れば、その持分を取得したり、その持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡したりできるようになりました。
ただし、裁判所において持分に応じた時価相当額の金銭の供託が必要です。
Q 共有のまま放置するとどうなりますか。
A 共有者の数が増え続け、いずれ収拾がつかなくなります。
共有者が亡くなるたびに持分が相続され、子が3人いれば1人が3人に増えるといった具合です。
これが繰り返されると全員の同意を得ることが事実上できなくなります。
法務省も、長期間放置されると相続が繰り返されて遺産の管理・処分が困難になると指摘しています。
Q 遺産分割に期限はありますか。
A あります。
被相続人の死亡から10年を経過した後の遺産分割は、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によって画一的に行うこととされました。
生前贈与や療養看護などの個別事情を考慮してもらうには、10年以内に家庭裁判所へ遺産分割の請求(調停や審判の申立て)をする必要があります。
なお10年経過後も、相続人全員が合意すれば具体的相続分による分割は可能です。
Q 共有持分専門の買取業者に売るとどうなりますか。
A 残された共有者が、見知らぬ業者と共有関係を持つことになります。
こうした業者は持分を買い取った後、他の共有者に持分の買い取りを打診したり、共有物分割請求を行ったりして利益を得る仕組みで動いています。
親族間の話し合いだったものが業者との交渉に変わるため、最後の手段として位置づけたほうがよいでしょう。
まとめ|共有持分は単独で売れるが全員での売却を先に検討する
自分の持分だけを売ることは、他の共有者の同意なしに行えます。
法務省も民間売買の特徴として明記している点です。
ただし買い手は限られ、価格は持分割合以上に下がり、残された共有者は見知らぬ相手と共有関係になってしまいます。
まず試すべきは、全員で売って代金を分けること、次に他の共有者に買ってもらうことです。
それでも進まなければ、共有物分割請求という手段が残されています。
所在不明の共有者がいる場合も、令和5年4月の改正によって裁判所を通じた解決の道ができました。
最も避けたいのは放置です。
共有者が亡くなるたびに関係者が増え、遺産分割は10年を過ぎると具体的相続分を考慮しない扱いに変わります。
今がいちばん共有者の少ない状態だと捉えて、できるところから動き出してみてください。
共有名義の整理は当事者だけで進めるのが難しい分野です。迷ったら、まずは不動産会社や専門家に現状を話してみるところから始めてみてくださいね。
出典・参考情報
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わりました」(民間売買は「共有者がいる場合でも、自分の持分のみ売却可能」、共有制度の見直し〈令和5年4月1日施行〉、所在等不明共有者の持分取得・譲渡と供託、遺産分割の10年ルールと令和10年3月31日までの猶予期間、相続登記の義務化)
- 民法 第251条(共有物の変更)、第252条(共有物の管理・保存)、第258条(裁判による共有物の分割)、第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得)、第262条の3(所在等不明共有者の持分の譲渡)、第904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)
- 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)
※裁判所の手続の要否や必要書類は個別の事案により異なります。
税制の適用可否も個別の事情によって異なり、特例の適用には確定申告が必要です。
個別の判断については、弁護士、司法書士、税務署または税理士、不動産会社にご相談ください。


