境界が確定していない土地は売れる?測量と筆界特定

「境界が確定していないので、測量をしてください」——不動産会社からそう言われて、数十万円という金額に戸惑っている方は多いのではないでしょうか。
そもそも境界とは何なのか、なぜ今さら測量が必要なのか、腑に落ちないまま話が進んでいくことに不安を感じているかもしれません。
あるいは、隣の家との境界の認識が微妙にずれていて、今さら言い出しにくいと感じている方もいるでしょう。
結論から言えば、境界が確定していない土地でも売却自体はできます。
ただし、「境界」という言葉には実は2つの意味があり、そこを混同したまま話を進めると、不動産会社や隣人との会話がかみ合わなくなってしまいます。
まずはその整理から始め、確定測量の中身、隣地の協力が得られないときの筆界特定制度、そして測量が不要なケースまで、順を追って見ていきましょう。
土地の境界とは|「筆界」と「所有権界」は別物
不動産の世界でいう「境界」には、法務局の登記に基づく「筆界」と、実際の所有権が及ぶ範囲を示す「所有権界」という2つの意味があります。この2つは一致することが多いものの、必ずしも同じ線を指すわけではありません。
法務省は、筆界についてこう説明しています。
「筆界」とは、土地が登記された際にその土地の範囲を区画するものとして定められた線であり、所有者同士の合意などによって変更することはできません。
一方、一般にいう「境界」は筆界と同じ意味で使われるほか、所有権の範囲を画する線という意味で用いられることがあり、その場合は筆界とは異なる概念になります。そして法務省は、「筆界は所有権の範囲と一致することが多いですが、一致しないこともあります」とも明記しています。
| 筆界(ひっかい) | 所有権界 | |
|---|---|---|
| 性質 | 登記されたときに定められた線 | 所有権が及ぶ範囲の線 |
| 合意で動かせるか | 動かせない | 当事者間で動かせる |
| 両者の関係 | 一致することが多いが、一致しないこともある | |
出典:法務省「筆界特定制度」Q&A(Q1「筆界」って何ですか)
なぜこの2つがずれることがあるのでしょうか。
たとえば、昔に隣同士で「この塀のところでいいね」と決めて長年その線で使い続けてきた場合、その線は所有権界として扱われることがあっても、登記上の筆界は別の位置に引かれたままかもしれません。
塀を建て替えるときに少し位置がずれた、という程度のことでも十分に生じ得ます。
売却の場面では、この両方をきちんと整理しておく必要があります。
境界の話は専門用語が多く混乱しやすいので、分からない点は遠慮なく土地家屋調査士や不動産会社に聞いてくださいね。
境界が確定していない土地は売れるか|起きる問題
境界が確定していない土地でも、売却そのものは可能です。ただし、そのままでは買主の不安や価格交渉の材料になりやすく、放置すると引き渡し後のトラブルに発展することもあります。
まず起きやすいのが、買主が抱える不安です。「本当にこの範囲が自分のものになるのか」を確認できないまま契約することになり、引き渡し後に隣から「そこは私の土地だ」と言われるリスクを買主自身が負うことになってしまいます。
次に、面積が確定しないという問題があります。登記簿の地積は古い測量に基づいていることがあり、実測してみると登記簿の数字と違っていた、というケースは決して珍しくありません。
そして、こうした不確実性は価格交渉の材料にもなります。
境界がはっきりしない分、買主は少しでも安く買おうとするものです。
加えて、境界が曖昧だと敷地の範囲を示せないため、買主が建物を建てられない場合がある点も見落とせません。
建築確認の際に敷地の範囲を明示できないと、話が先に進まなくなってしまいます。
そして売主にとって特に重要なのが、引き渡し後のトラブルの責任です。
境界について認識の違いがあることを知りながらそれを伝えずに売れば、契約不適合責任を問われる可能性があります。
免責特約を結んでいたとしても、知っていて告げなかった事実については責任を免れないと解されています(民法第572条)。
告知義務の考え方は「雨漏りする家を売りたい|修繕せずに売る方法と告知義務」でも扱っていますので、あわせて確認してみてください。
境界の食い違いに気づいているのに黙って売るのは避けたいところです。小さな違和感でも、まずは不動産会社に共有してくださいね。
土地の確定測量とは何をするのか|隣地との立会いで筆界を決める
確定測量とは、土地家屋調査士が資料調査と現地測量を行い、隣地所有者との立会いを経て筆界を確認し、書面と境界標によって確定させる一連の手続きです。売却時にはこの確定測量を求められることが多くなります。
| やること | 中身 | |
|---|---|---|
| 1 | 資料調査 | 法務局の公図・地積測量図、市区町村の道路台帳などを収集 |
| 2 | 現地測量 | 境界標や工作物の位置を測る |
| 3 | 隣地との立会い | 隣地所有者に現地で確認してもらう |
| 4 | 官民境界の確認 | 道路や水路に接する場合、行政との立会いが必要 |
| 5 | 筆界確認書の取り交わし | 隣地所有者と書面で確認 |
| 6 | 境界標の設置・図面作成 | 現地に杭を入れ、確定測量図を作成 |
時間がかかりやすいのは3と4の工程です。
隣地所有者が遠方に住んでいる、相続で名義が変わっていない、そもそも連絡がつかない——こうした事情があると、数か月では終わらないこともあります。
行政との立会いも、申請から日程調整まで相応の時間を要します。
売却を考え始めた段階で着手しておけば、話が具体化したときに慌てずに済むはずです。売却の全体の流れは「不動産売却の流れ|査定から引き渡しまでの7ステップ」で整理していますので、あわせてご覧ください。
確定測量は時間がかかりがちな工程です。売却を思い立ったら、早めに動き出しておくと後々の焦りを減らせますよ。
隣地が測量に協力してくれないとき|筆界特定制度
隣地所有者の協力が得られず確定測量が進まない場合、法務省が運用する「筆界特定制度」を利用するという選択肢があります。裁判をせずに、筆界特定登記官が公的に筆界の位置を明らかにしてくれる制度です。
確定測量の最大の難関は、隣地所有者の協力が得られない場合です。立会いを拒否される、押印してもらえない、そもそも所有者が誰か分からない——こうした事態は珍しくありません。
筆界特定制度では、土地の所有者として登記されている人などの申請に基づき、筆界特定登記官が、外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における筆界の位置を特定します。
ここで法務省が強調している点が2つあります。
1つ目は、筆界特定とは、新たに筆界を決めることではなく、実地調査や測量を含む様々な調査を行った上、もともとあった筆界を筆界特定登記官が明らかにすることだという点です。境界を「作る」のではなく、元々あったものを「見つける」制度だと理解しておくとよいでしょう。
2つ目は、筆界特定制度は、土地の所有権がどこまであるのかを特定するものではないという点です。あくまで筆界についての制度であり、所有権界をめぐる争いは別途解決する必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請できる人 | 土地の所有者として登記されている人やその相続人など |
| 申請先 | 対象土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局の筆界特定登記官 |
| 手数料 | 土地の価格によって決まる。申請人の土地と隣の土地の価格の合計が4,000万円なら8,000円 |
| その他の費用 | 手続の中で測量が必要となることがあり、その場合は測量費用を負担する |
| 結果に不服なら | 後から裁判で争うこともできる |
出典:法務省「筆界特定制度」Q&A(Q5、Q7、Q8、ポイント欄)
法務省は、この制度を活用することで裁判よりも迅速にトラブルを解決でき、費用負担も少なくてすむとしています。隣人と裁判で争わなくても、筆界をめぐる問題の解決を図れる点が大きな特色といえるでしょう。
隣地とのやり取りに気まずさを感じる方は多いですが、筆界特定制度のような公的な仕組みがあることを知っておくだけでも安心材料になりますよ。
確定測量が要らないケースもある
売却にあたって確定測量が法律で義務づけられているわけではありません。近年の確定測量図が残っていて境界標も現地に確認できる場合など、状況によっては新たな測量なしで売却を進められることもあります。
| 状況 | 傾向 |
|---|---|
| 近年の確定測量図があり、境界標も現地にある | 新たな測量は不要なことが多い |
| 分譲地で、区画整理された土地 | 資料が整っていることが多い |
| マンションの一室 | 土地は共有持分なので、個別の測量は通常不要 |
| 古い土地で測量図がない、境界標が見当たらない | 求められることが多い |
| 隣地と認識が食い違っている | 解決しないまま売ると後日の紛争になり得る |
ただし、測量をしないまま売却を進めるのであれば、その状態を買主にきちんと説明したうえで合意することが欠かせません。「公簿売買(登記簿の面積で取引し、実測との差があっても精算しない)」という方法もありますが、それで買主が納得してくれるかどうかはまた別の問題です。
費用の目安や他の諸費用との関係は「不動産売却にかかる税金と費用の全体像|いくら手元に残る?」で扱っていますので、あわせて確認しておくと安心です。
測量なしで進める場合も、隠すのではなく「なぜ測量していないか」を買主に率直に伝えることが信頼につながりますよ。
相続した土地は先に相続登記を|測量の前提になる
相続した土地に境界の問題がある場合は、まず相続登記を済ませておく必要があります。名義が明確でないと、筆界特定の申請も、隣地との筆界確認書の取り交わしも進められないからです。
筆界特定の申請ができるのは、土地の所有者として登記されている人やその相続人などに限られます。また確定測量で隣地と筆界確認書を取り交わす際にも、名義がはっきりしていなければ話が前に進みません。
2024年4月から相続登記が義務化されています。
相続した土地を売るのであれば、まず登記を済ませておいてください(「相続登記をしないと不動産は売れない?義務化と手続き」)。
隣地が相続登記をしていない場合は、そちらの相続人を探すところから始まることもあり、思っている以上に時間がかかるケースもあります。
相続した土地を売るまでの順番
名義を明確にしないと次の手続きに進めない
必要に応じて筆界確認書を取り交わす
境界がはっきりした状態で買主に提示できる
※隣地が相続登記を済ませていない場合は、その相続人を探すところから始まることがあります。
相続した土地は、境界より先に名義の整理でつまずくことがよくあります。まずは登記の状況を確認してみてくださいね。
確定測量の費用は誰が払うのか|譲渡費用として計上できる
確定測量にかかった費用は、譲渡所得の計算上、譲渡費用として控除できる場合があります。売却のために直接要した費用にあたるかどうかで判断されるため、該当するかどうかは個別に確認が必要です。
領収書は必ず保管しておいてください。確定申告の際に必要になります(「不動産を売った後の確定申告のやり方|必要書類と期限」)。
測量費用の領収書は、後から探すと見つからないことも多いものです。支払った時点でひとまとめにしておくと安心ですよ。
境界・確定測量のよくある質問
Q 隣の人と「ここが境界」と合意すれば、それで確定しますか。
A 所有権界については合意で決められますが、筆界そのものは変わりません。
法務省は、筆界は土地が登記された際に定められた線であり、所有者同士の合意などによって変更することはできないとしています。
合意した線と筆界がずれている場合、登記上の土地の範囲はあくまで筆界のままとなります。
Q 筆界特定をすれば、所有権の範囲も決まりますか。
A 決まりません。
法務省は「筆界特定制度は、土地の所有権がどこまであるのかを特定するものではありません」と明記しています。
この制度が明らかにするのはあくまで筆界であり、所有権の争いはそれとは別に解決する必要があります。
Q 筆界特定の結果に納得できない場合はどうなりますか。
A 後から裁判で争うことができます。
法務省もその旨を明記しています。
ただし筆界特定は公的な判断として一定の意味を持つため、まず筆界特定を経てから今後の対応を判断するという進め方が現実的な場合もあるでしょう。
Q 筆界特定の手数料はいくらですか。
A 土地の価格によって決まります。
法務省の例では、申請人の土地とその隣の土地の価格の合計額が4,000万円である場合、申請手数料は8,000円です。
ただし手続の中で測量が必要となることがあり、その場合は測量費用を別途負担することになります。
Q 測量しないと売れませんか。
A 法律上の義務ではないため、測量なしで売却できる場合もあります。
近年の確定測量図があり境界標も現地にある場合や、マンションの一室のように土地が共有持分の場合は、通常は測量が不要とされることが多いようです。
ただし境界が不明確な土地では買主が不安を持ちやすく、価格交渉の材料になることもあります。
境界について認識の違いを知りながら伝えずに売ると、契約不適合責任を問われる可能性がある点には注意してください。
Q 測量にはどのくらい時間がかかりますか。
A 状況によっては数か月かかることがあります。
隣地との立会いや行政との官民境界確認に時間を要するためで、隣地所有者が遠方にいる、相続で名義が変わっていない、連絡がつかないといった事情があるとさらに長引く傾向があります。
売却を考え始めた段階で着手しておくと安心です。
まとめ|境界が未確定でも売れるが確定測量が有利
境界の話がこじれる原因のひとつは、言葉の意味が2つあることです。
筆界は登記されたときに定められた線で、所有者同士の合意では変更できません。
所有権界は所有権が及ぶ範囲で、当事者間で動かせます。
法務省も、両者は一致することが多いものの一致しないこともあるとしています。
売却では確定測量を求められることが多く、隣地との立会いや官民境界の確認に時間がかかります。
隣地の協力が得られない場合は、筆界特定制度という選択肢があります。
裁判より迅速で費用負担も少ないと法務省は説明していますが、この制度が明らかにするのはあくまで筆界であって、所有権の範囲ではありません。
まずは手元の資料を確認してみてください。
確定測量図があるか、境界標が現地にあるか。
そのうえで不動産会社に測量の要否を相談するとよいでしょう。
相続した土地であれば、先に相続登記を済ませておくことが、すべての出発点になります。
境界の問題は一人で抱え込まず、早めに不動産会社や土地家屋調査士に相談してくださいね。動き出しが早いほど、選べる選択肢も広がりますよ。
出典・参考情報
- 法務省「筆界特定制度」(筆界の定義と所有権界との違い、筆界特定は新たに筆界を決めるものではない旨、所有権の範囲を特定する制度ではない旨、申請人・申請先・手数料の例、裁判との関係)
- 不動産登記法 第123条以下(筆界特定)、第77条(地積測量図の記録事項)
- 民法 第562条〜第566条(契約不適合責任)、第572条(担保責任を負わない旨の特約)
- 国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」
※測量の要否や費用、期間は土地の状況により異なります。
譲渡費用に該当するかどうかは個別の事情によって判断されます。
個別の判断については、土地家屋調査士、不動産会社、法務局、税務署または税理士にご相談ください。


