農地は売れる?農地法の許可と転用のハードル

相続した田んぼや畑が、誰にも使われないまま何年も放置されている——そんな方は少なくありません。
そろそろ手放したいと不動産会社に相談したところ、「農地は農地法の許可が必要なので、普通の土地のようには売れませんよ」と言われ、途方に暮れてしまった。
固定資産税の納付書が届くたびに気が重くなり、遠方まで草刈りに通う体力も限界に近づいている——。
売却の全体の流れは「不動産売却の流れ|査定から引き渡しまでの7ステップ」で解説しています。
その戸惑いは、決して大げさなものではありません。
農地は宅地や建物とはまったく違う制度のもとにあり、許可を受けずにした売買は効力を生じません。
ただし、売る道がすべて閉ざされているわけでもありません。
農地のまま売るのか、転用して売るのか。
自分の農地がどの区分にあり、どんな許可が必要になるのか。
順を追って整理していきます。
農地の売却方法は2つ|農地のまま売るか転用して売るか
農地の売却は大きく2つに分かれます。買主が農業を続ける前提で農地のまま売る場合は農地法3条、宅地や駐車場などに転用する前提で売る場合は農地法5条の許可を受ける必要があります。
| 条文 | 場面 | 許可権者 |
|---|---|---|
| 3条 | 農地のまま売る・貸す (権利移動) | 農業委員会 |
| 4条 | 自分の農地を宅地等にする (自己転用) | 都道府県知事等 (4ha超は農林水産大臣) |
| 5条 | 転用する目的で売る (転用+権利移動) | 都道府県知事等 (4ha超は農林水産大臣) |
出典:農林水産省「農業振興地域制度、農地転用許可制度等について」、農地法第3条・第4条・第5条。2〜4haの転用について知事が許可しようとするときは大臣と協議。
売却で実際に使うのは3条か5条のどちらかです。
買主が農業を続けるなら3条、買主が家を建てたり駐車場にしたりするなら5条にあたります。
どちらを選ぶかによって、買える相手の範囲も、審査の通りやすさもまったく違ってきます。
そして、ここでもう一つ押さえておきたい原則があります。
農林水産省は、この許可等を受けないでした権利の設定又は移転は効力を生じないとしています。
買主と契約書を交わし、代金のやり取りを済ませたとしても、許可が下りなければ所有権はいつまでも移転しないのです。
まずは3条か5条か、どちらの許可が必要になる売り方なのかを整理するところから始めてみてくださいね。
農地のまま売る方法|農地法3条の許可
農地のまま売る場合は、農地法3条にもとづき農業委員会の許可を受ける必要があります。買主が実際に耕作する人または法人であることなどが審査されるため、宅地のように誰にでも売れるわけではありません。
この道の難しさは、買える人が限られてしまうことにあります。農地法3条では、農地の効率的な利用が見込まれるかどうかなどが審査されるため、実際に耕作を行う人・法人でなければ買主にはなれません。
そこで現実的になるのが、「隣の農家が買ってくれるかもしれない」という道です。
農地は隣接地との一体利用によって価値が上がりやすいため、地元の農業委員会や農協に相談すると、買い手の情報を持っていることがあります。
買主が見つかりにくい土地の売り方については「仲介と買取どっちがいい?違いとメリット・デメリット」もあわせてご参照ください。
もう一つ、農地中間管理機構(農地バンク)という選択肢もあります。
都道府県が設置する組織で、農地の貸し借りを仲介するものです。
売却そのものではありませんが、耕作放棄を避けながら手放す実質的な方法になり得ます。
農地は隣接地の所有者にとって価値が高まりやすい土地です。まずは地元の農業委員会や農協への相談から始めてみましょう。
転用して売る方法|農地法5条と農地区分
買主が宅地や駐車場などとして使う場合は、農地法5条にもとづく転用許可が必要です。この許可が下りるかどうかを大きく左右しているのが、農地ごとに定められた「農地区分」です。
農林水産省は、優良農地を確保するために農地を区分し、転用を農業上の利用に支障が少ない農地に誘導するとしています。言い換えれば、質のいい農地ほど転用させにくい仕組みになっているということです。
| 農地区分 | どんな農地か | 許可の方針 |
|---|---|---|
| 農用地区域内農地 | 市町村の農業振興地域整備計画で農用地区域とされた区域内の農地 | 不許可 |
| 甲種農地 | 市街化調整区域内の、農業公共投資後8年以内の農地、集団農地で高性能農業機械での営農が可能な農地 | 原則不許可 (例外許可あり) |
| 第1種農地 | 集団農地(10ha以上)、農業公共投資対象農地、生産力の高い農地 | 原則不許可 (例外許可あり) |
| 第2種農地 | 農業公共投資の対象となっていない小集団の生産力の低い農地、市街地として発展する可能性のある農地 | 第3種農地に立地困難な場合等に許可 |
| 第3種農地 | 都市的整備がされた区域内の農地、市街地にある農地 | 原則許可 |
出典:農林水産省「農業振興地域制度、農地転用許可制度等について」(参考資料1)。
自分の農地がどの区分にあたるのか——これを知らずに売却の話を進めることはできません。
まずは農業委員会で確認してください。
第3種農地であれば道は開けますが、農用地区域内農地であれば転用は不許可となります。
農用地区域内にある場合、転用するには一時的な利用等を除き、先に農用地区域から外す手続(農振除外)が必要になります。代替すべき土地がないこと、農業上の効率的かつ総合的な利用に支障を及ぼすおそれがないこと、農業生産基盤整備事業完了後8年を経過していることなどの要件があり、時間もかかる手続きです。
農地を売る前に確認する順番
農業委員会で自分の農地がどの区分にあたるか確認する
市街化区域か市街化調整区域かを確認する
区分と区域に応じた申請・届出を進める
※区分・区域により手続きの負担は大きく異なります。
農地区分は自分では判断がつきにくいものです。必ず農業委員会の窓口で確認してから次を考えてくださいね。
市街化区域の農地は届出でよい|許可が不要になる
市街化区域内にある農地を転用する場合は、農業委員会へあらかじめ届出を行えば許可は不要です。市街化区域は市街化を促進する区域であるため、農地を宅地にすることが政策的にも想定されているからです。
自分の農地が市街化区域内にあるなら、転用のハードルは大きく下がります。まずは自分の土地がどちらの区域にあるのかを確認してみてください。
市街化区域内であれば手続きの負担はぐっと軽くなります。まずは区域の確認から始めましょう。
市街化調整区域の農地は二重の許可が要る
市街化調整区域にある農地を宅地にして売る場合は、農地法と都市計画法という、目的の異なる2つの法律の許可を受ける必要があります。
| 法律 | 何の許可か | 観点 |
|---|---|---|
| 農地法 | 転用許可(5条) | 優良農地を守れるか |
| 都市計画法 | 開発許可(29条・34条)/建築許可(43条) | 無秩序な市街化を防げるか |
出典:農地法、都市計画法。目的の異なる2つの制度がそれぞれ適用されます。
目的が違う制度であるため、片方が通ってももう片方で止まってしまうことがあります。
農地転用の許可が下りても、都市計画法34条の立地基準に該当しなければ建物は建てられません。
市街化調整区域の建築制限については「市街化調整区域の家は売れる?建て替えの可否と許可」で詳しく扱っています。
逆に言えば、市街化調整区域の農地を宅地として売るというのは、二重のハードルを越える必要があるということです。ここを見誤ると、買主が現れてから話が壊れてしまいかねません。
市街化調整区域の農地は、農地法だけでなく都市計画法の窓口にも早めに相談しておくと安心です。
農地転用は一般基準でも止まる|資力と計画の確実性
農地区分(立地基準)をクリアしただけでは、転用が認められるとは限りません。農林水産省は、転用計画の実現性や周辺農地への影響などを審査する「一般基準」も設けており、これに該当すると不許可になります。
| 転用の確実性が認められない場合 他法令の許認可の見込みがない場合、関係権利者の同意がない場合 等 |
| 周辺農地への被害防除措置が適切でない場合 |
| 一時転用の場合に、農地への原状回復が確実と認められない場合 |
出典:農林水産省「農業振興地域制度、農地転用許可制度等について」(参考資料1)。
農林水産省は、具体的な転用目的を有しない投機目的、資産保有目的での農地の取得は認めないとしています。
「とりあえず宅地にして誰かに売る」という進め方では通りません。
買主と用途があらかじめ具体的に決まっていることが求められます。
買主が決まっていない段階での転用申請は通りにくいので、順番には気をつけてくださいね。
農地の無許可転用の罰則|原状回復命令もある
許可を受けずに農地を転用すると、原状回復命令などの行政処分の対象になります。「見つからなければいい」という考え方は避けたほうがよいでしょう。
罰則も定められており、法人の違反転用については平成21年度の制度改正で罰金の上限が引き上げられました。違反転用者が不明の場合等には、農林水産大臣・都道府県知事が自ら原状回復等の措置を実施する行政代執行制度も整備されています。
そして前述のとおり、許可を受けないでした権利の設定又は移転は効力を生じません。無許可のまま契約を進めても、法的な安定は得られないのです。
無許可のまま話を進めてしまう前に、必ず農業委員会や専門家に確認してくださいね。
相続した農地は届出が必要|10か月以内
相続で農地を取得した場合は、農業委員会への届出が必要です。相続を知った時からおおむね10か月以内に行うこととされており、これは3条許可とは別の、届出のみで済む手続きです。
建物と同様に、相続登記も必要になります(「相続登記をしないと不動産は売れない?義務化と手続き」)。
名義が祖父のままでは、そもそも売却の話を進めることができません。
相続した不動産全般の手順は「相続した不動産を売却する流れ|手続き・税金・注意点」で扱っています。
相続した農地は、届出と名義変更の両方が必要になることが多いので、早めに確認しておくと安心です。
農地が売れない場合の選択肢|農地バンクと相続土地国庫帰属
どうしても買い手が見つからない農地には、相続土地国庫帰属制度という選択肢があります。相続等によって土地を取得した相続人が、法務大臣の承認を受けて土地を国庫に帰属させる制度で、令和5年4月27日から始まりました。
ただし審査手数料(一筆当たり14,000円)のほか、承認を受けた場合には10年分の土地管理費相当額の負担金が必要です。
田・畑については面積にかかわらず20万円が原則ですが、一部の市街地や農用地区域等の田・畑は面積に応じて算定されます。
境界が明らかでない土地は対象外となっている点にも注意してください。
相続放棄という選択肢との違いも、あわせて押さえておくとよいでしょう(「相続放棄した家はどうなる?売却できるのか」)。
国庫帰属制度は要件や負担金があるため、まずは農地バンクや隣接農家への相談と並行して検討してみてください。
農地の売却でよくある質問
Q 農地は誰にでも売れますか。
A いいえ、誰にでも売れるわけではありません。
農地のまま売る場合(農地法3条)は農業委員会の許可が必要で、実際に耕作する人・法人であることなどが審査されます。
宅地等に転用して売る場合(同法5条)は、農地区分に応じた転用許可が必要です。
いずれの場合も、許可を受けないでした権利の移転は効力を生じません。
Q 自分の農地が転用できるか、どこで分かりますか。
A 農業委員会で農地区分を確認すれば分かります。
農用地区域内農地は不許可、甲種農地・第1種農地は原則不許可、第2種農地は第3種農地に立地困難な場合等に許可、第3種農地は原則許可という方針です。
区分が分からないまま売却活動を始めてしまうと、買主が現れてから話が止まりかねません。
Q 市街化区域にある農地はどうなりますか。
A 市街化区域内の農地を転用する場合は、農業委員会にあらかじめ届出を行えば許可は不要です。
市街化区域は市街化を促進する区域であるためです。
市街化調整区域の農地に比べ、転用のハードルは大きく下がります。
Q 市街化調整区域の農地に家を建てて売れますか。
A 農地法の転用許可と、都市計画法の開発許可・建築許可の両方が必要です。
目的の異なる2つの制度なので、片方が通ってももう片方で止まることがあります。
都市計画法34条の立地基準に該当しなければ建築はできません。
両方の窓口で事前に確認しておくことをおすすめします。
Q 相続した農地に手続きは要りますか。
A はい、農業委員会への届出が必要です。
相続を知った時からおおむね10か月以内とされています。
これは3条許可とは別の手続で、許可ではなく届出です。
あわせて相続登記も必要で、2024年4月から義務化されています。
Q 買い手が見つからない農地はどうすればいいですか。
A まずは隣接農地の所有者や地元の農業委員会・農協に相談してみてください。
農地は隣接地との一体利用で価値が上がりやすいためです。
貸すなら農地中間管理機構という選択肢もあります。
それでも難しい場合、相続で取得した土地であれば相続土地国庫帰属制度があります。
ただし負担金が必要で、境界が明らかでない土地は対象外です。
まとめ|農地は区分と許可の見通しで売り方が決まる
農地の売却は、普通の土地とは別の制度のもとで動いています。
農地のまま売るなら3条(農業委員会の許可)、転用して売るなら5条(知事等の許可)。
そして許可を受けないでした権利の移転は効力を生じません。
この原則を忘れずにいてください。
転用できるかどうかは農地区分で決まります。
農用地区域内農地は不許可、甲種・第1種は原則不許可、第3種は原則許可です。
まず農業委員会で自分の農地の区分を確認することが、すべての出発点になります。
市街化区域内なら届出だけで済みますが、市街化調整区域なら農地法と都市計画法の二重の許可が要ります。
農地のまま売るなら、隣の農家が最も現実的な相手になるでしょう。
制度の壁は高く感じられるかもしれませんが、区分と区域さえ分かれば、進める道は見えてきます。
まずは窓口で確認することから始めてみてください。
農地の売却は一人で判断が難しい部分が多いので、農業委員会や専門家への早めの相談をおすすめします。
出典・参考情報
- 農林水産省「農業振興地域制度、農地転用許可制度等について」(参考資料1。農地区分と許可の方針、許可権者、市街化区域内は届出で許可不要、許可を受けないでした権利の設定・移転は効力を生じない旨、一般基準、投機目的・資産保有目的の取得は認めない旨、農用地区域からの除外要件、平成21年度の規制厳格化)
- 農地法 第3条(権利移動)、第4条(転用)、第5条(転用のための権利移動)
- 農業振興地域の整備に関する法律(農振法)
- 都市計画法 第29条、第34条、第43条
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わりました」(相続土地国庫帰属制度。令和5年4月27日施行、審査手数料一筆14,000円、田・畑の負担金)
※農地区分の判定や許可の運用は、農地の所在地・自治体により異なります。
転用の可否は個別の事情によって判断されます。
個別の判断については、農地の所在地を管轄する農業委員会、市区町村の開発指導担当窓口、不動産会社、行政書士等の専門家にご相談ください。

