離婚で家を売るには?財産分与の税金と住宅ローンの注意点

離婚の話し合いは進んでいるのに、家のことだけがどうしても決まらない。
そんな状態で足が止まっている方は少なくありません。
名義は夫、住宅ローンも夫名義なのに、実際に住んでいるのは自分と子どもというケースもあれば、売って現金で分けたいけれど、ローンを差し引いた後にいくら手元に残るのか見当がつかないというケースもあります。
売却の全体の流れは「不動産売却の流れ|査定から引き渡しまでの7ステップ」で解説しています。
大きな資産が絡む話し合いですから、揉めてしまうのはむしろ自然なことです。
結論から先に言えば、離婚にともなう家の扱いは順序ひとつで金額が大きく変わります。
同じ家を同じ相手に渡す場合でも、離婚届を出す前か後かで、数百万円単位の差が生まれることがあるのです。
財産分与にかかる税金の仕組みから、住宅ローンの連帯保証、共有名義を放置した場合のリスクまで、順を追って見ていきましょう。
離婚の財産分与で家を渡すと渡した側に譲渡所得税がかかる
財産分与で不動産を渡した側には、原則として譲渡所得税がかかります。
分与した時点の時価が譲渡所得の収入金額とみなされ、購入時より値上がりしていればその差額に課税される仕組みです。
もらう側には通常贈与税がかからないのとは対照的で、意外に思われる方も多いところです。
離婚により相手方から財産をもらった場合、通常、贈与税はかかりません。
夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づいて給付を受けたものと考えられるためです(国税庁No.4414)。
ここまではご存じの方も多いかもしれません。
問題は逆側にあります。
財産分与が土地や建物などで行われたときは、分与した人に譲渡所得の課税が行われます(国税庁No.3114)。
このとき、分与した時の時価が譲渡所得の収入金額になります。
つまり、家を渡した側は1円も受け取っていないのに、税金だけを払うことがあり得るということです。「時価で売ったのと同じ扱い」を受けるためで、購入時より値上がりしていれば、その差額に課税されてしまいます。
| 立場 | 扱い |
|---|---|
| 渡す側 | 譲渡所得の課税対象。分与時の時価が収入金額になる |
| もらう側 | 通常、贈与税はかからない。分与を受けた日に、その時の時価で取得したことになる |
| もらった家を将来売るとき | 財産分与を受けた日を基に、長期譲渡か短期譲渡かを判定する |
出典:国税庁「No.3114 離婚して土地建物などを渡したとき」(所基通33-1の4、33-9、38-6)、「No.4414 離婚して財産をもらったとき」(相基通9-8)
もらう側にも見落としがちな点があります。
分与を受けた日が新しい取得日になるため、将来その家を売るときの所有期間はそこから数え直されます。
長く住んでいた家であっても、分与直後に売れば短期譲渡(税率39.63%)と判定されることがあるのです。
税率の違いについては「不動産を売ると税金はいくら?譲渡所得税の計算方法」で詳しく整理しています。
財産分与は「渡す側にも税金がかかる」という点を見落としている方が多いので、分与する前に税額の見込みを確認しておくと安心ですよ。
家を渡すタイミングは離婚前か離婚後か|税金が大きく変わる
同じ家を渡すのでも、離婚成立の前か後かで3000万円特別控除が使えるかどうかが分かれます。結論を言えば、離婚届を提出したあとに財産分与の登記を行うほうが、税制上は有利になりやすいということです。
マイホームを売ったときの3000万円特別控除には、「親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと」という要件があります(国税庁No.3302の要件5)。
配偶者は、この「特別の関係がある人」に該当します。
つまり、離婚が成立する前に配偶者へ家を分与すると、3000万円控除は使えません。
一方、離婚が成立した後であれば、元配偶者はもはや配偶者ではなく、特別の関係がある人にはあたりません。同じ相手に同じ家を渡しても、届け出のタイミングひとつで控除が使えるかどうかが変わってくるのです。
| タイミング | 3000万円控除 |
|---|---|
| 離婚成立前に分与 | 相手は配偶者=特別の関係がある人にあたるため使えない |
| 離婚成立後に分与 | 元配偶者は特別の関係がある人にあたらないため使える可能性がある |
出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」(措法35)をもとに整理
財産分与を有利に進める手順
離婚を先に成立させ、相手を配偶者ではない状態にする
離婚成立後に所有権移転登記を進める
要件を満たせば3000万円特別控除の対象になり得る
実務では、離婚届の提出を済ませてから所有権移転登記を行う順序が採られています。
譲渡所得が3,000万円あれば、控除の有無で税額は600万円以上変わり得るからです。
順序を逆にするだけで消えてしまう金額としては、決して小さくありません。
3000万円控除の有無による税額差(譲渡所得3,000万円の場合の例)
※譲渡所得3,000万円を想定した目安であり、実際の税額は個別の状況により異なります。
ただし、もう一つの期限が同時に迫ってきます。
3000万円控除の対象になるのは、現に住んでいる家屋か、以前に住んでいた家屋なら住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合です。
別居が長引くと、この期限のほうが先に来てしまうことがあります。
控除の詳細は「3000万円特別控除とは|マイホーム売却で使える節税制度」をご覧ください。
「離婚が先か、名義変更が先か」だけで数百万円変わることがあるので、登記の前に一度、税理士や不動産会社に順序を確認していただきたいですね。
財産分与の請求期限は5年に延びた|2026年4月の改正
財産分与の請求期間は、令和8年(2026年)4月1日施行の改正民法により、離婚の時から2年から5年に伸長されました。あわせて考慮要素が明確化され、婚姻中の財産取得・維持に対する寄与の割合は原則2分の1ずつとされています(民法第768条)。
期限が延びたとはいえ、放置してよいという話ではありません。
この期間は除斥期間と呼ばれ、時効と違って中断や停止がないと解されています。
また、施行日前に離婚が成立している場合の期間の扱いは事案により異なり得るため、すでに離婚している方は個別に確認しておく必要があるでしょう。
なお、年金分割は財産分与とは別の手続きで、原則として離婚成立日の翌日から2年以内という期限が別途あります。こちらは今回の改正の対象ではありません。
期限が5年になったからと後回しにせず、話し合いができるうちに進めておくほうが、結果的にご自身の負担も少なくて済みますよ。
離婚で家を売るか住み続けるか|3つの選び方
離婚時の家の選択肢は、大きく分けて①売って現金で分ける、②一方が住み続けて代償金を払う、③名義はそのままで一方が住み続ける、の3つです。それぞれメリットと落とし穴が異なります。
1. 売って現金で分ける
最もすっきりする方法です。売却代金からローン残債と諸費用を引いた残りを分けるだけで、名義も債務も清算されるため、離婚後に相手とやり取りが続くことはありません。
共有名義の場合、3000万円控除は共有者それぞれが受けられる可能性があります。
夫婦2分の1ずつの持分であれば、合わせて最大6,000万円まで控除できる計算になります。
ただし、それぞれが要件を満たし、それぞれが確定申告をする必要がある点は忘れないでください。
2. 一方が住み続け、代償金を払う
家の価値の半分を現金で相手に渡し、名義を自分に一本化する方法です。
子どもの学校を変えたくない場合などに選ばれます。
まとまった現金が必要になるうえ、住宅ローンが残っていれば名義変更に金融機関の承諾が要ります。
3. 名義はそのままで、一方が住み続ける
3つの中では最も揉めやすい形です。名義や連帯保証がそのまま残るため、住宅ローンをめぐる問題が離婚後もずっとついて回ることになります。
「とりあえず住み続ける」を選ぶ前に、住宅ローンの名義や連帯保証がどうなるかだけは、必ず先に確認しておいてくださいね。
離婚時に住宅ローンが残っている場合の注意点|連帯保証は外れない
離婚協議書に「ローンは夫が払う」と書いても、それは夫婦間の約束にすぎません。
連帯保証人や連帯債務者になっている場合、金融機関に対する責任はそのまま残ります。
夫が支払いを止めれば、家を出た側に請求が来てしまいます。
また、住宅ローンには「本人が居住すること」を条件とする商品が多く、名義人が家を出て相手が住み続ける形は、契約上の条件から外れる可能性があります。金融機関に無断で進めると、一括返済を求められることもあり得るため注意が必要です。
名義を変更するには金融機関の承諾が必要ですが、残った側の収入で審査を通す必要があり、認められないことも少なくありません。借り換えができるかどうかが、住み続ける案を選べるかどうかの分かれ目になります。
売却額がローン残債を下回るオーバーローンの場合は、売却しても借金が残ってしまいます。
この場合の選択肢は「オーバーローンの家は売れる?残債がある場合の売却方法」で扱っています。
連帯保証や連帯債務は、離婚協議書だけでは外れません。金融機関への相談は、できるだけ早いうちに始めてくださいね。
離婚後に共有名義のまま放置するとどうなるか
共有名義の家を離婚後もそのままにしておくと、将来売りたいと思ったときに元配偶者の同意が得られず、身動きが取れなくなるおそれがあります。「とりあえず名義はそのままで」という結論は、問題を先送りしているだけのことが多いのです。
共有名義の不動産は、売却に共有者全員の同意が必要です。数年後に売ろうとしても、相手と連絡が取れない、相手が再婚していて話が進まない、といったことが起こり得ます。
さらに、どちらかが亡くなれば、その持分は新しい配偶者や子に相続されます。
元配偶者の相続人と共有関係になり、話し合いの相手が増えていくことになります。
共有持分をめぐる問題は「共有名義の不動産、自分の持分だけ売れる?」でも扱っています。
離婚時に清算しておくほうが、時間が経ってからよりも明らかに簡単です。
「今は関わりたくないから、とりあえずそのままに」というお気持ちはよく分かりますが、後になるほど手続きは複雑になっていきますよ。
離婚で家を売るときのよくある質問
Q 財産分与で家をもらいました。贈与税はかかりますか。
A 通常はかかりません。
財産分与請求権に基づいて給付を受けたものと考えられるためです。
ただし、分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎる場合はその多過ぎる部分に、離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合はもらった財産すべてに、贈与税がかかります。
Q 家を渡すだけなのに、なぜ渡す側に税金がかかるのですか。
A 財産分与として不動産を渡す行為が、税務上「時価で譲渡したもの」として扱われるためです。
分与した時の時価が譲渡所得の収入金額となり、取得費などを上回っていれば課税されます。
現金を受け取っていなくても課税されるため、事前に税額を試算しておく必要があります。
Q 離婚前に名義変更したほうが手続きは楽ではないですか。
A 手続き自体は同じですが、税金が変わります。
離婚成立前は相手が配偶者にあたり、3000万円特別控除の「特別の関係がある人に対して売ったものでないこと」という要件を満たさなくなります。
実務では離婚届の提出後に登記を行う順序が採られています。
Q 共有名義の家を売ると、3000万円控除は1回だけですか。
A 共有者それぞれが要件を満たせば、各自が控除を受けられる可能性があります。
持分2分の1ずつの夫婦であれば、合計で最大6,000万円まで控除できる計算になります。
それぞれが確定申告をする必要がある点にも注意してください。
Q 離婚協議書に「ローンは元夫が払う」と書けば、連帯保証は外れますか。
A 外れません。
離婚協議書は夫婦間の合意であり、金融機関には対抗できないためです。
連帯保証人や連帯債務者としての責任は契約上残るため、元夫が滞納すれば請求が来てしまいます。
保証から外れるには、金融機関の承諾を得て借り換えや契約変更を行う必要があります。
Q 財産分与はいつまでに請求できますか。
A 令和8年(2026年)4月1日施行の改正民法により、請求期間は離婚の時から5年になりました(改正前は2年)。
ただし施行日前に離婚が成立している場合の扱いは事案により異なり得ます。
また年金分割は別の手続きで、原則として離婚成立日の翌日から2年以内という期限があります。
Q 共有名義のまま離婚後も放置するとどうなりますか。
A 将来売却する際に共有者全員の同意が必要になるため、相手と連絡が取れなくなったり、再婚などで話がまとまらなくなったりする可能性があります。
また、どちらかが亡くなると持分が新しい配偶者や子に相続され、元配偶者の相続人と共有関係になることもあります。
離婚時に清算しておくほうが、後々の手続きは簡単です。
まとめ|離婚の家の売却はタイミングとローン名義で決まる
離婚で家を扱うときに押さえるべきは、順序です。
財産分与で不動産を渡すと渡した側に譲渡所得税がかかり、離婚成立前に渡すと3000万円特別控除が使えません。
同じ相手に同じ家を渡しても、離婚届を先に出すかどうかで税額が変わってしまいます。
住宅ローンが残っている場合、夫婦間の約束は金融機関には通用しません。
連帯保証は書面の取り決めでは外れず、名義変更にも金融機関の承諾が要ります。
共有名義のまま放置すれば、数年後に売りたくても相手の同意が必要になり、相続が発生すれば相手方の相続人まで巻き込むことになりかねません。
感情の整理と資産の清算は、本来別のものです。
まずは今の家がいくらで売れるのか、ローンと諸費用を引いて何が残るのかという事実を把握するところから始めてみてください(計算方法は「マンション売却で手元に残る金額の計算方法」で整理しています)。
金額が見えると、話し合いの前提そのものが変わってくるはずです。
感情的に整理がついていなくても大丈夫です。まずは金額の事実を確認するところから、一緒に進めていきましょう。
出典・参考情報
- 国税庁「No.3114 離婚して土地建物などを渡したとき」(令和7年4月1日現在法令等/所基通33-1の4、33-9、38-6)
- 国税庁「No.4414 離婚して財産をもらったとき」(相基通9-8)
- 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」(措法35。要件5「特別の関係がある人に対して売ったものでないこと」)
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕」(令和6年法律第33号。財産分与の請求期間を2年から5年に伸長、考慮要素を明確化)
- 民法 第768条(財産分与)
※税制の適用可否や財産分与の期間の起算は、個別の事情により異なります。
3000万円特別控除の適用には確定申告が必要です。
住宅ローンの名義変更や連帯保証の取扱いは金融機関により異なります。
個別の判断については、税務署または税理士、弁護士、不動産会社にご確認ください。


