使用貸借とは?家族間の不動産売却時の注意点
親名義の土地に無償で家を建てて住んでいる方、兄弟に無償で貸していた実家を相続した方から、「このまま不動産を売却していいのか」という相談が増えています。無償で不動産を借りる契約は民法593条に定められた使用貸借(しようたいしゃく)にあたり、賃貸借と違って借主を守る規定が薄く、登記もされないため、貸主の側は使用貸借を解消すれば比較的スムーズに売却へ進められますが、借主との関係を整理せずに売却活動を始めると、後になってトラブルに発展することがあります。本記事では、使用貸借とは何かという基本から、家族間で不動産を売却する際に確認すべき権利関係、解消の手順までを解説します。
この記事はこんな方に向いています
- 親名義の土地に無償で家を建てて住んでいたが、通勤の変化で自宅を売却する際に使用貸借の扱いが気になる45歳会社員の方
- 兄弟に無償で貸していた実家を相続を機に売却したいが、使用貸借の解消方法が分からず不安な方
- 家族間の口約束だけで貸していた土地建物を整理する必要があり、契約書がない場合の注意点を知りたい方
使用貸借とは|無償で借りる不動産契約の基本
使用貸借とは、民法593条に定められた、無償で物を借りる契約のことです。家族間で土地や家を貸し借りする場面の多くがこれに当たり、借主が家賃を払わない代わりに、固定資産税相当額程度の負担をすることは珍しくありません。この程度の負担であれば、賃貸借に切り替わったとはみなされないのが一般的な解釈です。
使用貸借には、賃貸借を保護する借地借家法の規定が及びません。期間や使用目的を定めていない場合、貸主はいつでも返還を請求できます(民法598条2項)。また、借主が亡くなると使用貸借は終了します(同法597条3項)。2020年4月1日に施行された改正民法でも、この基本的な枠組みは維持されています。無償で借りているという事実だけで、借主の立場は賃借人よりも弱いということを、まず押さえておく必要があります。
固定資産税程度の負担かどうかは金額だけで判断できないこともあるため、心配な場合は契約内容を文書で確認しておくと安心です。
親の土地に建てた家を売却するときの使用貸借の扱い
親名義の土地に子が家を建てて無償で住んでいるケースは、土地について使用貸借が成立している典型例です。借地権のように地代を払って土地を借りている場合と違い、使用貸借の借主には土地の売却を止める強い権利がありません。親がその土地を売却しようとすれば、子の同意なしに進めることも制度上は可能です。
一方で、親が亡くなり土地と建物を子が相続した場合は、同一人物の名義になるため使用貸借そのものが解消されます。この場合は権利関係を気にせず不動産売却へ進められますが、相続人が複数いて共有名義になった場合は、売却前に相続人全員の合意を取る必要があります。売却までの流れ全体は不動産売却の流れ|査定から引き渡しまでの7ステップで解説しています。
相続登記が済んでいないと売却活動を始められないため、名義変更のタイミングを先に確認してください。
使用貸借の不動産を売却する前に確認したい権利関係
対抗力のない使用貸借と所有者の売却の自由
使用貸借は登記される制度ではなく、借主は第三者に対して自分の使用権を主張できません。つまり、所有者が土地や家を第三者に売却した場合、新しい所有者は借主に対して返還を求めることができます。所有者の立場からすれば売却そのものに法律上の支障はありませんが、買主から見れば「人が住んでいる不動産」であり、退去の手間や時期が不確定な分だけ買い手が付きにくくなりやすい点は理解しておく必要があります。
相続税評価と小規模宅地等の特例への影響
親の土地に子が無償で家を建てて住んでいる場合、相続が発生したときの土地の評価や、小規模宅地等の特例の適用可否に使用貸借の事実が関わってきます。適用要件は細かく、親子の居住状況や相続後の利用方法によって結果が変わるため、相続税の計算を前提に売却を検討する場合は、税理士に確認したうえで進める方が安全です。
小規模宅地等の特例は適用できるかどうかで納税額が大きく変わるため、売却の前に税理士へ相談しておくことをお勧めします。
兄弟間で無償貸しの実家を売却する手順
返還請求と立退きの進め方
実家を相続し、そこに兄弟の1人が無償で住み続けているケースでは、売却前に使用貸借を解消する必要があります。使用期間や目的を定めていない使用貸借であれば、貸主の立場にある相続人はいつでも返還を請求できます(民法598条2項)。ただし、法律上請求できることと、実際に円満に退去してもらえることは別の話です。引越し費用や当面の住まい探しにかかる負担を考慮し、一定の立退料や準備期間を提示する例は少なくありません。
共有者がいる場合の同意の取り方
相続によって実家が共有名義になっている場合、売却には共有者全員の同意が必要です(民法251条)。使用貸借の解消と売却の合意を別々に進めると意見がまとまりにくくなるため、退去の時期と売却の条件を同時に話し合う方が、結果として早く進むことが多くなります。媒介契約を結ぶ不動産会社の選び方は媒介契約の種類|専属専任・専任・一般の違いと選び方で解説しています。
立退料に法的な決まりはないため、金額よりも退去時期を文書で明確にすることが後々のトラブル防止につながります。
契約書がない使用貸借を解消するときの注意点
家族間の使用貸借は、契約書を作らず口約束だけで続いているケースが多くあります。期間や使用目的を決めていたかどうかで、貸主がいつ返還を求められるかが変わるため、契約書がないと「そもそも何を約束していたのか」から議論になりやすくなります。
こうした場合は、返還を求める意思をあいまいなまま伝えず、内容証明郵便などで時期を明記して通知する方法が有効です。口頭でのやり取りだけで進めると、後から「そんな話はしていない」と食い違いが生じる恐れがあるため、合意できた内容はその都度、簡単な書面に残しておくことをお勧めします。
口約束だけで何年も経っている場合は、まず現状を一枚の覚書にまとめ、双方が署名することから始めてください。
使用貸借と賃貸借の違い|家族間の不動産取引で混同しやすい点
使用貸借と賃貸借の最大の違いは、対価の有無と、その結果として生じる保護の強さです。賃貸借は家賃という対価を伴い、借地借家法によって借主の居住が保護され、第三者にも対抗できます。これに対し使用貸借は無償であることを前提に成り立っており、借主を保護する規定がほとんどありません。
家族間では、わずかな金額を「家賃」として受け取っているケースもありますが、その金額が固定資産税相当額程度にとどまるなら使用貸借とみなされる可能性が高く、家賃相場に近い家賃を受け取っていれば賃貸借と判断される可能性が出てきます。どちらに当たるかで、売却時に借主へ求められる対応がまったく変わるため、受け取っているお金の性質を一度整理しておく必要があります。
家賃名目でお金を受け取っている場合は、金額の根拠を一度確認しておくと、売却時の説明がしやすくなります。
使用貸借の解消でトラブルを避けるための進め方
使用貸借を解消してから不動産売却に進むまでの流れを、順番に整理すると分かりやすくなります。
契約書の有無、誰がいつから住んでいるかを把握
売却方針を伝え、退去までの期間を相談
退去時期や立退料の有無を文書に残す
鍵の引き渡しと残置物の確認まで行う
空き家になった状態で複数社に相談
条件に合う売却方法を選んで進める
退去が済んでから初めて売却活動を本格化させる流れが基本で、話し合いと書面化を飛ばさないことが後のトラブルを防ぎます。
退去までに時間がかかりそうな場合や、住んだままの状態で早く手放したい場合は、仲介だけでなく不動産会社による買取も選択肢になります。両者の違いは仲介と買取どっちがいい?違いとメリット・デメリットで解説しています。また、売却前にまず目安の価格を知りたい場合は、匿名査定・AI査定はどこまで正確?精度の限界と賢い使い方も参考になります。
退去前に査定だけ先に取っておくと、売却までの全体のスケジュールが立てやすくなります。
よくある質問
使用貸借の不動産でも、借主の同意なしに売却できますか
所有者である貸主は、法律上は借主の同意なく不動産を売却できます。ただし、買主は住んでいる借主に退去を求める立場を引き継ぐことになるため、買主探しが難しくなったり、価格に影響が出たりすることがあります。
親が認知症になった場合、使用貸借の解消はどうなりますか
親が認知症などで判断能力を欠く状態になると、親自身が有効な契約行為を行えなくなります。この場合は成年後見制度を利用し、後見人を通じて不動産売却や使用貸借の解消を進める必要があります。
使用貸借の解消に立退料は必要ですか
法律上、使用貸借の解消にあたって立退料を支払う義務はありません。ただし、引越し費用や新しい住まいの準備にかかる負担を考慮し、円満な解消のために一定の金額を渡す例はあります。
兄弟が退去を拒んだ場合はどうすればよいですか
話し合いで解決しない場合は、内容証明郵便で返還請求の意思を明確に伝えたうえで、弁護士への相談や調停の利用を検討する流れになります。感情的な対立が深い場合は、早めに第三者を交えて進める方が長期化を防げます。
使用貸借の土地を売却したら贈与税はかかりますか
使用貸借そのものは無償であり、原則として借主に贈与税が課されるものではありません。ただし、相続税評価や小規模宅地等の特例への影響が出る場合があるため、個別の状況は税理士に確認する必要があります。
使用貸借とは何かを理解して家族間の不動産売却を進める
使用貸借とは、民法593条に基づく無償の貸し借りであり、賃貸借と違って借主の立場が弱く、登記もされません。だからこそ、所有者である貸主は比較的スムーズに不動産売却へ進められますが、長年住んでいる家族との関係を考えずに進めると、思わぬ反発やトラブルを招くことがあります。返還時期の話し合いと合意書の作成を済ませ、必要に応じて税理士や不動産会社に相談しながら進めることが、円満な解決への近道です。ぜひ本記事の使用貸借とはという基本と解消の手順を参考に、家族間の不動産売却を落ち着いて進めてください。
出典
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」
- 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
- 国税庁「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」
