瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い|不動産売却で売主が負う責任
築30年の自宅マンションを売る売買契約書に、「売主は契約不適合責任を負う」という条文が記載されています。以前住んだ家で経験した雨漏りを思い出し、この条文の意味が分からないまま引き渡しの日が近づいています。
契約不適合責任とは、2020年4月1日施行の民法改正で瑕疵担保責任に代わって導入された、売主の責任を定める制度です。売却した家が売買契約の内容に適合しない場合、買主は修補などを求める追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除のいずれかを求められます。
本記事では、瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い、不動産売却で売主が負う具体的な責任の内容と期間を解説します。
この記事はこんな方に向いています
- 定年後の生活資金づくりのため築30年の自宅を初めて売ることになり、売却後に何を保証しなければならないか分からず不安な方
- 契約書に書かれる責任範囲の意味が理解できず、引き渡し後に欠陥を指摘されて追加費用を請求される展開を恐れている方
- 以前住んだ家で雨漏りがあったことを思い出し、黙って売ると後で責任を問われるのではと心配している方
瑕疵担保責任とは|不動産売却で使われていた旧制度の責任範囲
瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)とは、2020年3月31日までに締結された不動産の売買契約に適用されていた、売主の責任を定める制度です。売却した家や土地に「隠れた瑕疵」があった場合、売主はその責任を負うとされていました。隠れた瑕疵とは、買主が通常の注意を払っても発見できなかった欠陥のことで、雨漏りや構造部分のひび割れなどが典型例です。
旧制度のもとで買主が求められる権利は限られていました。損害賠償請求と、欠陥によって不動産を買った目的そのものが達成できない場合に限った契約解除の2種類だけで、欠陥を直してもらう修補請求は認められていませんでした。
瑕疵の4分類|物理的・法律的・心理的・環境的瑕疵
不動産の瑕疵は、性質によって4つに分類されます。雨漏りやシロアリ被害、構造部分の欠陥などは物理的瑕疵、建築基準法に違反する増築などは法律的瑕疵です。過去に事件や事故があった物件は心理的瑕疵、近隣の騒音や悪臭など生活環境にかかわる問題は環境的瑕疵と呼ばれます。どの瑕疵も、不動産売却の場面で売主の責任が問われる原因になります。
旧制度の呼び方は今でも契約書に残っている場合があるので、言葉の由来を知っておくと安心です。
不動産売却で売主が負う契約不適合責任とは
契約不適合責任(けいやくふてきごうせきにん)とは、2020年4月1日施行の民法改正によって瑕疵担保責任に代わって導入された、売主の責任を定める制度です。売却した家が「隠れた瑕疵」を持つかどうかではなく、引き渡した家が売買契約の内容に適合しているかどうかで、売主の責任が判断されます。
売買契約の内容とは、売買契約書に加えて、付帯設備表や物件状況等報告書に記載された内容も含まれます。たとえば「雨漏りなし」と記載して引き渡した家に雨漏りが見つかれば、契約内容に適合していないと判断される可能性があります。
追完請求と代金減額請求
買主はまず、欠陥の修補や代替物の引き渡しなどを求める追完請求(ついかんせいきゅう)ができます(民法562条)。売主が相当な期間内に追完に応じない場合、買主は不適合の程度に応じて売買代金を減らす代金減額請求に進めます(民法563条)。
損害賠償請求と契約解除
追完や代金減額では補えない損害があれば、買主は損害賠償請求もできます。これは売主に過失がある場合に認められる権利で、旧制度の瑕疵担保責任と考え方は近いものです。不適合の程度が社会通念上軽微でなければ、契約解除も選べます(民法541条、564条)。たとえば不動産を買った目的そのものを達成できないほどの不適合であれば、催告をせずに直ちに契約解除できる場合もあります(民法542条)。旧制度と異なり、買主が欠陥を「知らなかった」ことを要件としない点が大きな変化です。売買契約書の条文を具体的に確認したい方は、不動産の売買契約書と手付金・契約不適合責任の関係で解説しています。
追完請求から代金減額請求に進むには相当な期間を売主に与える必要があるので、対応を先延ばしにしないでください。
旧制度との違いは4点|不動産売却における瑕疵担保責任と契約不適合責任
瑕疵担保責任と契約不適合責任は、不動産売却における売主の責任の範囲を大きく変えました。違いは主に次の4点に整理できます。
- 判断基準:隠れた瑕疵の有無から、売買契約の内容との適合性へ変わりました
- 請求できる権利の種類:損害賠償請求・契約解除の2種類から、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除の4種類へ増えました
- 買主の主観要件:欠陥を知らなかったことが必要だった旧制度に対し、現行制度では不要になりました
- 適用される契約の時期:2020年3月31日までの契約には旧制度、2020年4月1日以降の契約には現行制度が適用されます
| 項目 | 瑕疵担保責任(旧制度) | 契約不適合責任(現行制度) |
|---|---|---|
| 判断基準 | 隠れた瑕疵の有無 | 売買契約の内容との適合性 |
| 請求できる権利 | 損害賠償請求・契約解除 | 追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除 |
| 買主の主観要件 | 欠陥を知らなかったことが必要 | 不要 |
| 適用される契約の時期 | 2020年3月31日までの契約 | 2020年4月1日以降の契約 |
出典:法務省「民法の一部を改正する法律について」をもとに作成
請求できる権利の増え方を図で比較すると、次のようになります。
現行制度では、買主が選べる請求の種類が2種類から4種類に増えている点が図からも分かります。2026年9月時点の民法にもとづく比較です。
古い売買契約書を見返すときは、締結日が2020年4月1日の前後どちらかで、適用される制度が変わる点に注意してください。
家の引き渡し後いつまで責任を負うか|契約不適合責任の期間
契約不適合責任には、買主が売主に請求できる期間に制限があります。民法566条では、買主が不適合を知った時から1年以内に、その事実を売主へ通知しなければ、追完請求や代金減額請求、損害賠償請求、契約解除ができなくなると定められています。
一方で、不適合を知らなかった場合でも、引き渡しから10年を過ぎると消滅時効(民法166条)によって権利そのものが失われます。実務上の個人間売買では、売主の負担を抑えるため、引き渡しから3ヶ月程度に期間を短縮する特約を結ぶことが一般的です。
売主が宅地建物取引不動産会社である場合は、宅地建物取引業法40条により、引き渡しから2年以上の期間を定めなければ、期間を短縮する特約そのものが無効になります。個人が売主となる不動産売却では、この規定の対象外のため、売買契約書の条文をよく確認することが欠かせません。契約不適合責任の期間の設定や通知の具体例は、契約不適合責任の期間と対応方法で解説しています。
特約で定めた期間が過ぎると欠陥が見つかっても請求できなくなるので、売買契約書の期間欄は引き渡し前に必ず確認してください。
雨漏りなど欠陥がある家を売却するときの告知義務
以前の住まいで雨漏りを経験した記憶があるなら、今回売却するマンションについても、把握している欠陥を正直に伝える告知義務があります。
物件状況等報告書と付帯設備表
不動産売却では、物件状況等報告書と付帯設備表という2つの書面に、把握している欠陥や設備の状態を記入します。雨漏りやシロアリ被害、給排水設備の故障などがあれば、修理済みかどうかも含めて具体的に記入します。正確に記入しておけば、引き渡し後に欠陥が見つかっても、契約内容に適合していると判断されやすくなります。
「知っていて黙っていた」欠陥は免責特約でも責任が消えない
売買契約書に「現状有姿で引き渡す」という特約を入れても、売主が知っていて買主に伝えなかった欠陥については、免責されません(民法572条)。過去の雨漏りを直した記憶があるなら、修理した事実と経緯を物件状況等報告書に記入しておくことが、引き渡し後のトラブルを防ぐ具体的な対応になります。
直した記憶がある欠陥ほど忘れやすいので、工事の記録や写真を残しておくと記入の際に役立ちます。
特約と既存住宅売買瑕疵保険で抑える契約不適合責任のリスク
個人間の不動産売却では、契約不適合責任の対象範囲や期間を、売買契約書の特約で限定するのが一般的です。たとえば「給排水設備の故障は対象外」「主要構造部分のみ対象」といった形で、責任を負う範囲をあらかじめ狭めておきます。
築年数が古い家を売却する場合は、既存住宅売買瑕疵保険という選択肢もあります。建物状況調査(インスペクション)を受けたうえで加入すると、引き渡し後に見つかった構造部分や雨水の侵入にかかわる欠陥の補修費用を、保険でカバーできる仕組みです。加入は任意ですが、買主の安心材料になり、売却活動そのものが進みやすくなる面もあります。不動産会社へ売却の相談をする前に、匿名で大まかな売却価格を確かめたい場合は、匿名査定・AI査定の精度と使い方で解説しています。
既存住宅売買瑕疵保険は加入できる物件の条件があるので、建物状況調査を依頼する不動産会社に加入の可否を確認してください。
よくある質問
瑕疵担保責任と契約不適合責任は、どちらが今の不動産売却に適用されますか?
2020年4月1日以降に締結した売買契約には契約不適合責任が適用されます。2020年3月31日までに締結した売買契約には、当時の瑕疵担保責任が適用されたままです。
築年数が古い家を売るとき、既存住宅売買瑕疵保険に加入しないといけませんか?
加入は任意で、義務ではありません。ただし建物状況調査を経て加入すると、買主が安心して検討しやすくなる場合があります。
過去の雨漏りを修理済みなら、売買契約書に記載しなくても問題ありませんか?
修理済みであっても、雨漏りがあった事実と修理の経緯を物件状況等報告書に記入しておくことをおすすめします。記載がないまま引き渡し後に再発すると、告知義務を果たしていないと判断される可能性があります。
契約不適合責任の対象となる期間を、売買契約書の特約で短くできますか?
個人が売主となる不動産売却では、特約で期間を短縮できます。ただし宅地建物取引不動産会社が売主となる場合は、宅地建物取引業法40条により、引き渡しから2年以上の期間を定めなければ特約自体が無効になります。
契約不適合責任を完全に免除する特約を結べば、何があっても責任を負いませんか?
免責の特約があっても、売主が知っていて買主に伝えなかった欠陥については、民法572条により責任を免除されません。知っている欠陥は、物件状況等報告書に記入しておく必要があります。
瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いを踏まえた不動産売却の進め方
瑕疵担保責任は2020年3月31日までの売買契約に適用され、隠れた瑕疵の有無を基準に、損害賠償請求と契約解除の2種類だけが認められていました。2020年4月1日施行の民法改正以降は契約不適合責任に置き換わり、売買契約の内容に適合しているかどうかを基準に、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除の4種類の請求が認められています。
築年数が古い家を売却する際は、過去の欠陥を物件状況等報告書や付帯設備表に正確に記入し、必要に応じて既存住宅売買瑕疵保険も検討することで、引き渡し後のトラブルを抑えられます。ぜひ本記事の瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いを参考に、売買契約書の特約や告知の内容を確認してください。
出典
- 法務省「民法の一部を改正する法律について(債権法改正)」
- e-Gov法令検索「民法」
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」
- 国土交通省「既存住宅売買瑕疵保険に関する資料」
