不動産売却の手付金とは?金額の決め方と注意点
不動産の売買契約を結ぶ日が近づくと、契約書に記された手付金の金額が気になり始めます。買主から受け取る、あるいは買主として支払う手付金は、一般的に売買価格の5〜10%で設定され、民法557条が定める解約手付(かいやくてつけ)としての性質を持ちます。
手付金は契約の成立を証明する証拠金であり、最終的には売買代金に充当されますが、買主が売買契約を解除すれば手付金は戻らず、売主が売買契約を解除すれば受け取った手付金の倍額を買主へ返す義務が生じます。
本記事では、不動産売却における手付金の売却相場と金額の決め方、支払いのタイミング、契約解除時の注意点を解説します。
この記事はこんな方に向いています
- 自宅を初めて売却することになり、手付金をいくらに設定すべきか相場が分からず不安な45歳会社員の方
- 買い替えのため自宅の売買契約を控え、手付金のトラブルで契約が解除されないか心配になっている方
- 離婚に伴い自宅を売る交渉が進み、受け取る手付金の金額と注意点を事前に把握しておきたい方
不動産売却における手付金とは|役割と位置づけ
不動産の売買契約を結ぶとき、買主は売主に対して手付金を支払います。手付金とは、売買代金の一部を契約時に先払いする金銭で、最終的には残代金と合わせて売買代金全体に充当されるお金です。
手付金には、売買契約が成立したことを示す証拠金としての役割と、契約を解除する際の違約金に近い役割の2つがあります。民法557条は、当事者が反対の意思を示さない限り、支払われた手付金を解約手付として扱うと定めています。解約手付とは、買主・売主のどちらからでも契約を解除できる代わりに、一定の金銭的な負担を発生させる手付金の性質を指します。
不動産売却を進める売主にとっては、手付金を受け取ることで売買契約が後戻りしにくくなる一方、自分の都合で契約を解除する場合には受け取った手付金の倍額を返す義務を負う点を理解しておく必要があります。
売買契約書の手付解除に関する条項は、不動産会社の説明だけで済ませず、必ず自分の目で確認してください。
不動産の手付金相場はいくら?売買価格に対する金額の決め方
不動産の手付金相場は、売買価格の5〜10%程度が一般的です。たとえば3000万円のマンションを売却する場合、手付金は150万円〜300万円程度で設定されることが多くなります。
売主が宅地建物取引不動産会社(宅建不動産会社)である場合、宅地建物取引業法第39条により、手付金の額は売買価格の20%を超えてはならないという制限があります。個人が売主となる不動産売却ではこの制限は適用されませんが、実務上は5〜10%の範囲に収めるケースが大半です。
手付金の金額を決めるときは、買主の資金計画や住宅ローンの事前審査の状況、引渡しまでの期間を踏まえて不動産会社と相談するのが実務的です。手付金が低すぎると買主が安易に契約を解除しやすくなり、高すぎると買主の負担が重くなって契約がまとまりにくくなります。
売買価格3000万円の場合、手付金の売却相場がどの範囲に収まるかを帯グラフで示します。
※売買価格3000万円の場合の手付金相場と残代金の概算例(2026年9月時点)
緑と赤の帯が手付金5〜10%の範囲(150万〜300万円)、グレーの帯が引渡し時に支払う残代金の目安です。
売却相場のレンジはあくまで目安であり、物件の価格帯や取引の状況によって調整されます。
売買契約から引渡しまで|手付金を支払う・受け取るタイミング
売買契約時に支払う手付金
手付金は、売買契約を締結するその場で、買主から売主へ現金または銀行振込で支払われます。不動産会社が立ち会う場合、手付金の受領証を発行し、契約書に受領日と金額を明記します。売主が受け取った手付金を引渡しまでの間に使い込んでしまうと、契約が解除された際の返還に対応できなくなるリスクがあるため、一定期間は手元に残しておくことが望ましいです。
引渡し時の残代金と手付金の精算
残代金は、物件の引渡し日に買主から売主へ支払われます。このとき、すでに支払われている手付金は売買代金の一部として差し引かれ、残代金は売買代金から手付金を引いた金額として精算されます。仲介手数料や登記費用などは、この残代金の支払いと同時に別途清算されるのが一般的です。
引渡しまでの期間が長い売却では、手付金をいつまで保管しておくか、不動産会社と事前に確認しておくと安心です。
契約解除時の手付金の扱い|手付放棄と手付倍返し
買主が契約を解除する場合(手付放棄)
買主の都合で売買契約を解除する場合、買主はすでに支払った手付金を放棄することで契約を解除できます。これを手付放棄と呼びます。買主は手付金以外の違約金を追加で請求されることはありませんが、支払った手付金は戻りません。
売主が契約を解除する場合(手付倍返し)
売主の都合で売買契約を解除する場合、売主は受け取った手付金の倍額を買主に返す必要があります。これを手付倍返しと呼びます。たとえば手付金200万円を受け取っていた場合、契約を解除するには400万円を買主へ返還する義務が生じます。
なお、買主の住宅ローンが承認されなかった場合に適用されるローン特約(融資特約)による契約解除は、手付放棄や手付倍返しの対象外です。ローン特約による解除では、受け取った手付金は買主へ全額返還されるのが一般的な取り扱いです。
ローン特約の期限は契約書に明記されているため、売主側も日付を把握しておく必要があります。
確定申告で注意したい手付金と税金の関係
手付金そのものに対して課税されるわけではありません。不動産売却によって生じる譲渡所得は、手付金と残代金を合わせた売買代金全体を基準に計算されます。
譲渡所得の計算では、売買契約日と引渡し日のどちらを譲渡の日とするかを売主が選択できます(国税庁)。手付金を受け取った年と引渡しが完了する年が異なる場合、どちらの年の所得として申告するかによって、確定申告のタイミングが変わります。
どちらの日を譲渡の日とするかで申告時期が変わるため、迷ったら税務署か税理士に確認してください。
保全措置の有無で防ぐ不動産売却の手付金トラブル
宅建不動産会社が売主となる不動産売却では、宅地建物取引業法第41条により、一定額を超える手付金等を受け取る際に保全措置(銀行の保証や保険への加入など)を講じる義務があります。これは、未完成物件の売買などで買主の手付金が保護されるようにするための仕組みです。
一方、個人が売主となる不動産売却では、この保全措置の義務はありません。手付金の保管方法や、契約解除時の返還手続きについて、契約書に具体的な取り決めがないまま売買契約を結ぶと、後からトラブルになりやすくなります。
不動産売却を始める前に売却相場を把握しておくことも、手付金の金額や交渉の見通しを立てるうえで役立ちます。匿名査定やAI査定を使って大まかな売却相場を調べる方法は、匿名査定・AI査定の精度と使い方で解説しています。
手付金の受け渡しは、できるだけ不動産会社を通し、受領証など書面を残すようにしてください。
住み替え・離婚・相続事情別に見る手付金交渉の注意点
転勤による住み替えで引渡しを早めたい売主は、買主に対して通常より高めの手付金を提示し、契約の確実性を高める交渉をすることがあります。買主側にとっても引渡し期日が明確になるメリットがあるため、双方の事情を踏まえた金額設定が重要です。
離婚に伴って自宅を売却する場合は、受け取った手付金の分配方法を、離婚協議の中であらかじめ決めておく必要があります。手付金を含めた売買代金全体の分配方法が曖昧なまま契約が進むと、引渡し後に金銭トラブルへ発展することもあります。
相続した不動産を売却する場合も、手付金の扱いは基本的な仕組みと変わりません。相続した不動産の売却手続きや税金については相続した不動産を売却する流れ|手続き・税金・注意点で解説しています。相続放棄を検討している段階でも不動産の価値を匿名で調べておきたい場合は、相続放棄を検討中でも不動産の価値を匿名で調べる方法で解説しています。
事情が複雑な売却ほど、手付金の条項を契約前に不動産会社や専門家へ確認しておくことが安全です。
よくある質問
不動産売却で手付金を受け取ったら、すぐに使ってもよいですか?
使うこと自体に法律上の制限はありませんが、売買契約が解除された場合は手付金の倍額を買主へ返す義務が生じるため、引渡しが完了するまでは一定額を手元に残しておくことをおすすめします。
手付金はいつ、どのように支払われますか?
売買契約を締結するその場で、買主から売主へ現金または銀行振込で支払われるのが一般的です。不動産会社が受領証を発行し、契約書に金額と受領日が記載されます。
手付金の金額は売主と買主のどちらが決めますか?
最終的には双方の合意で決まりますが、売却相場は売買価格の5〜10%程度で、不動産会社が買主の資金計画などを踏まえて金額の案を提示することが多くなります。
住宅ローンの審査に落ちた場合、手付金は戻りますか?
契約書にローン特約(融資特約)が盛り込まれている場合、融資が承認されなかったことを理由に売買契約を解除すれば、受け取った手付金は買主へ全額返還されるのが一般的です。
手付金を受け取ったことは確定申告に関係しますか?
手付金単体に課税されることはなく、残代金と合わせた売買代金全体が譲渡所得の計算対象になります。申告のタイミングは契約日・引渡し日のどちらを譲渡の日とするかによって変わります。
不動産売却の手付金を正しく理解して契約に備える
不動産売却における手付金は、売買価格の5〜10%程度を目安に、売買契約の成立を示す証拠金として機能し、契約解除の際には手付放棄や手付倍返しという形で当事者の負担を発生させます。金額の決め方や保管方法、税金の扱いを理解しておくことで、売買契約の直前に慌てずに済みます。ぜひ本記事の手付金の売却相場と注意点を参考に、売買契約の内容を事前に確認してください。
出典
- e-Gov法令検索「民法」(第557条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第39条、第41条)
- 国税庁「譲渡所得の計算のしかた」
