不動産売却で確定申告が不要になるケースと必要な条件を解説
不動産を売却した翌年になると、譲渡所得税の確定申告期限(2月16日から3月15日)を知らせる案内が税務署から届き、自宅を売って損失が出たはずなのに申告が必要なのかどうか分からないまま日が過ぎていきます。
不動産を売って譲渡所得(譲渡価格から取得費や譲渡費用を差し引いた利益)がマイナスで、居住用財産の特例を使わない場合、確定申告は原則不要です。譲渡所得がプラスの場合や、3,000万円特別控除(租税特別措置法35条)のように申告してはじめて適用される特例を使う場合は、納税額が0円でも確定申告が必要です。
本記事では、不動産売却や相続不動産売却で確定申告が不要になるケースと、申告が必要になる条件、申告をしなかった場合のリスクを解説します。
この記事はこんな方に向いています
- 自宅を売却したが損失が出たようで、確定申告が本当に必要なのかどうか判断がつかない50歳の方
- 手元に残る金額を計算する中で、申告不要になる条件を満たしているか確認しておきたいと考えている方
- 税理士に依頼する前に、自分のケースが申告免除に当たるかどうかをまず自分で把握したい方
不動産売却で確定申告不要になるケースとは
不動産を売却して得た利益は譲渡所得と呼ばれ、給与所得などとは分けて計算する分離課税です。譲渡所得の金額は、売却価格から取得費(購入時の価格や仲介手数料など)と譲渡費用(売却時の仲介手数料や印紙代など)を差し引いて求めます。
この譲渡所得がマイナス、つまり売って損をした場合は、原則として確定申告の義務はありません。所得税は利益に対してかかる税金のため、利益が出ていなければ納める税金もなく、申告する理由がないからです。
一方で、譲渡所得がプラスになった場合や、申告することではじめて使える特例を利用する場合は、確定申告が必要になります。不要かどうかは「損失かどうか」だけでなく「特例を使うかどうか」でも変わります。不動産売却にかかる税金と費用の全体像は不動産売却にかかる税金と費用の全体像で解説しています。
損失が出た場合の「申告不要」は原則です。住宅ローン控除など他の制度との関係で例外もあるので個別に確認してください。
損失が出た不動産売却で確定申告不要になる条件
譲渡所得がマイナスになる確定申告不要のケースとして代表的なのが、思ったより安くしか売れなかった自宅の売却です。たとえば取得費と譲渡費用を合計すると2,800万円かかっていた自宅が2,500万円でしか売れなければ、譲渡所得は300万円のマイナスになり、申告の義務はありません。
ただし、この損失を給与所得など他の所得と相殺(損益通算)し、さらに翌年以降3年間繰り越して控除できる特例があります。特定のマイホームを売った場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(租税特別措置法41条の5の2)や、買い換えの場合の特例(同41条の5)です。これらの特例を使って所得税の還付を受けたい場合は、損失であっても確定申告が必要になります。
申告が不要なのは、あくまで損益通算の特例を使わず、損失を他の所得と相殺しない場合に限られます。
損益通算の特例を使うと所得税が還付される場合があります。申告しないまま終えると還付の機会を逃すので要注意です。
自宅売却の特別控除と確定申告の関係
自宅(居住用財産)を売って利益が出た場合でも、特例を使えば納税額が0円になることがあります。ただし、特例は申告してはじめて適用される点が、損失の場合と大きく異なります。
3,000万円特別控除の仕組み
居住用財産を売った場合の3,000万円特別控除(租税特別措置法35条)は、譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける特例です。譲渡所得が3,000万円以下であれば、この特例を使うことで所得税と住民税がどちらも0円になります。適用を受けるには確定申告書に必要事項を記載し、売買契約書の写しなどの添付書類を提出しなければなりません。納税額が0円だからといって申告を省くと、特例の適用自体が認められなくなります。
軽減税率の特例との関係
所有期間が10年を超える居住用財産を売った場合は、軽減税率の特例(租税特別措置法31条の3)を3,000万円特別控除と併用できます。譲渡所得のうち6,000万円以下の部分の税率が、通常の長期譲渡所得より低い14.21%(所得税10.21%+住民税4%)に抑えられます。この特例も確定申告での選択適用が条件で、自動的には適用されません。
特別控除や軽減税率を使わずに不動産を売却した場合、手元に残る金額は税金と諸費用の分だけ目減りします。次の図は、3,000万円で売却し、長期譲渡所得に対して控除を使わなかった場合の概算の内訳です。
※3000万円で売却・長期譲渡・控除適用なしの概算例(2026年9月時点)
このように控除を使わなければ売却代金の2割前後が税金で失われる計算になり、3,000万円特別控除を申告で適用できるかどうかが手取り額を大きく左右します。
控除額は申告書に記載して初めて反映されます。納税額が0円でも申告を忘れると特例が無効になるので注意してください。
相続した不動産を売却した場合の確定申告不要の判断
相続した不動産を売却した場合も、譲渡所得の計算方法は自分で取得した不動産と同じです。ただし取得費は被相続人(亡くなった人)が取得した当時の価格を引き継ぐため、数十年前の購入価格や契約書が残っておらず取得費が分からないケースが少なくありません。
取得費が不明な場合は、売却価格の5%を取得費とみなす概算取得費を使いますが、この金額は実際の取得費より低くなりがちで、結果として譲渡所得が大きくなり、損失にならず確定申告が必要になるケースが多くなります。
相続した不動産の売却では、相続税の取得費加算の特例(租税特別措置法39条)も使えます。相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却すれば、納めた相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得を圧縮できます。この特例も申告してはじめて適用されるため、確定申告は欠かせません。
なお、相続した不動産は相続登記(名義変更の登記)が済んでいないと売却できません。売却の前提として登記の状況を確認しておく必要があります。相続した不動産の査定書の取り方は相続した不動産の査定書が必要なときの取り方で解説しています。
相続した不動産は取得費の裏付け資料を探すだけでも時間がかかります。早めに書類を確認しておきましょう。
確定申告が必要になるケースと申告をしなかった場合のリスク
確定申告が必要になるかどうかは、譲渡所得の有無と特例の利用有無で決まります。
確定申告が必要な具体的なケース
- 譲渡所得がプラスになった場合
- 3,000万円特別控除や軽減税率の特例を使う場合
- 相続税の取得費加算の特例を使う場合
- 損失を他の所得と損益通算する特例を使う場合
無申告のペナルティ
申告が必要なのに期限内(不動産を売却した年の翌年2月16日から3月15日まで)に申告しなかった場合、無申告加算税が課されます。税額は原則として納付すべき税額の15%(50万円を超え300万円までの部分は20%、300万円を超える部分は30%)で、税務署の調査を受ける前に自主的に申告すれば5%に軽減されます。これに加えて、納付が遅れた日数に応じた延滞税もかかります。
税率や加算税の割合は税制改正で見直されることがあるため、最新の数値は国税庁や税理士に確認してください。
無申告加算税は自主的な申告なら軽減されます。期限を過ぎても放置せず早めに税務署へ相談してください。
書類の準備と手続きの流れ|不動産売却の確定申告
確定申告が必要な場合、まず譲渡所得を計算するための書類をそろえます。購入時と売却時の売買契約書、仲介手数料や印紙代の領収書、登記事項証明書が基本の書類です。相続した不動産であれば、被相続人の取得時の契約書に加えて、相続税の申告書も取得費加算の特例を使う場合に必要です。
書類がそろったら、確定申告書とともに譲渡所得の内訳書を作成し、売却した年の翌年2月16日から3月15日までに税務署へ提出します。e-Taxを使えば自宅からオンラインで申告でき、還付がある場合は申告から1~2か月程度で指定口座に振り込まれます。
取得費を確認する作業で査定書を参照する場面は、相続や離婚の財産分与に伴う不動産売却でも生じます。離婚の財産分与で不動産を売却する場合の査定書の要否は離婚の財産分与で査定書が必要な場面で解説しています。
e-Taxでの申告は還付までの期間が短くなる傾向があります。マイナンバーカードの準備もあわせて進めておきましょう。
税理士に依頼するかどうかの判断基準|不動産売却の確定申告
譲渡所得がマイナスで特例を使わない申告不要のケースであれば、自分で判断して終えられます。一方で、3,000万円特別控除と軽減税率の併用、相続税の取得費加算の特例、損益通算の特例など複数の特例が絡む場合は、添付書類や計算式が複雑になり、税理士に依頼したほうが計算ミスを防げます。
税理士に依頼する際の報酬は、譲渡所得の申告だけであれば数万円から10万円台が目安とされますが、事務所によって幅があるため、見積もりを複数取って比較することをおすすめします。3,000万円特別控除を使うと住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)とは原則併用できないため、どちらを選ぶ方が手取りで有利かを含めて相談すると安心です。
特例を複数併用する場合は税理士によって計算結果が変わることもあります。見積もり時に計算根拠も確認してください。
よくある質問
譲渡所得がマイナスでも確定申告をしたほうがいい場合はありますか?
損益通算の特例(租税特別措置法41条の5、41条の5の2)を使って他の所得と相殺したい場合は、損失であっても確定申告をしたほうが所得税の還付を受けられる可能性があります。
相続不動産売却確定申告不要になるのはどんなときですか?
相続した不動産を売って取得費加算の特例などを使わず、譲渡所得がマイナスになった場合は原則不要です。ただし取得費が不明で概算取得費(売却価格の5%)を使うと利益が出やすく、不要になるケースは多くありません。
確定申告をしなくても税務署にはばれませんか?
不動産の売買は法務局の登記情報や不動産会社からの支払調書を通じて税務署が把握しています。申告が必要なのに提出しないと、後日の調査で無申告加算税や延滞税の対象になります。
申告期限を過ぎてから気づいた場合はどうすればいいですか?
気づいた時点でできるだけ早く期限後申告をすれば、無申告加算税は税務署の指摘を受ける前であれば5%に軽減されます。放置する期間が長いほど延滞税も増えるため、早めの対応が望ましいです。
3,000万円特別控除は住宅ローン控除と一緒に使えますか?
原則として、3,000万円特別控除の適用を受ける年の前2年、その年、後3年間の合計6年間は、新居で住宅ローン控除を受けられません。どちらが手取りで有利になるかは個別の試算が必要なため、確定申告の前に比較しておくと安心です。
不動産売却確定申告不要の判断とまとめ
不動産売却で確定申告が不要になるのは、譲渡所得がマイナスで、かつ損益通算などの特例を使わない場合に限られます。相続不動産売却確定申告不要の判断も同じ考え方で、取得費加算の特例を使わず損失になった場合だけが対象です。譲渡所得がプラスの場合や、3,000万円特別控除、軽減税率、取得費加算の特例を使う場合は、納税額が0円でも確定申告をしなければ特例が認められません。ぜひ本記事の確定申告が不要になる条件と必要になる条件を参考に、自分のケースがどちらに当てはまるか確認してください。
出典
- 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
- 国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
- 国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
- 国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」
- 国税庁「No.3390 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき」
- 国税庁「No.2024 確定申告を忘れたとき」
- 国税庁「確定申告が必要な方」
- 国税庁「No.1216 住宅借入金等特別控除」
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」
