SHARE:

夫が死亡したときの不動産相続の手続きと売却までの流れ・注意点

夫が死亡しても、自宅の登記簿の名義は夫のままで止まっています。不動産登記法第76条の2により、相続による所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があり、怠ると10万円以下の過料の対象になります。

必要な手続きは、死亡届の提出、相続人の調査、遺産分割協議、相続登記、そして売却を選ぶ場合の不動産会社への査定依頼まで、おおむね決まった順序をたどります。2026年9月時点の制度に基づいて進める必要があります。

本記事では、夫が死亡したあとの不動産相続の手続きと、名義変更から売却までの流れ、注意したい税金の特例を解説します。

この記事はこんな方に向いています

  • 夫を亡くしたばかりで自宅の名義変更をどこから始めればよいか分からず、手続きの順番に戸惑っている方
  • 夫の死後に住み続けるか売却するか迷っており、相続登記の期限を知らずに放置してしまわないか不安な方
  • 子どもと相続分の話し合いが済んでいない中で、夫名義の不動産を売却するまでの流れを知りたい方

夫が死亡したあとに必要な不動産の相続手続き

夫が死亡した直後にまず行うのは、死亡届の提出です。死亡の事実を知った日から7日以内に市区町村役場へ提出する必要があり、この手続きが済むと銀行口座の凍結や各種名義変更の起点になります。不動産については、遺言書の有無を確認し、法定相続人を確定させる作業が先に来ます。夫の出生から死亡までの戸籍をすべて取り寄せ、把握していなかった子や認知した子の有無を確認する必要があり、この戸籍収集が終わらないと遺産分割協議にも相続登記にも進めません。

戸籍の取り寄せに時間がかかる方は、早めに本籍地の市区町村役場へ請求しておくと後の手続きがスムーズです。

相続登記の申請期限と夫名義の家の名義変更

相続によって夫名義の家の所有権を取得したと知った日から3年以内に、相続登記を申請する義務があります(不動産登記法第76条の2)。2024年4月1日に施行された制度で、申請を怠ると10万円以下の過料の対象になり、施行日より前に相続した不動産にも遡って適用されます。ただし、施行日より前に相続が発生し、すでに所有権の取得を知っていた場合の申請期限は、令和9年(2027年)3月31日と、相続による所有権の取得を知った日から3年のいずれか遅い方になります(改正不動産登記法附則5条6項)。相続登記を済ませなければ不動産の名義は夫のまま残り、売却も担保設定もできません。遺産分割協議がまとまらず期限内の申請が難しい場合は、相続人申告登記という簡易な制度を使って義務を一時的に果たす方法もあります。

相続人申告登記はあくまで暫定的な措置で、遺産分割がまとまったら改めて相続登記が必要です。

相続人と遺産分割協議|夫名義の不動産は誰のものになるか

夫が死亡した場合の相続人は、妻と子が中心になり、子がいなければ夫の父母や兄弟姉妹にも相続分が及びます。

法定相続分の割合

民法900条に基づき、妻と子が相続人の場合は妻が2分の1、子が残り2分の1を人数で均等に分けます。子がおらず妻と夫の父母が相続人の場合は妻が3分の2、父母が3分の1で、妻と夫の兄弟姉妹が相続人の場合は妻が4分の3、兄弟姉妹が4分の1になります。

遺産分割協議書の作成

法定相続分どおりに分けない場合や、不動産を誰が取得するかを決める場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、合意内容を遺産分割協議書にまとめます。相続人全員の実印での押印と印鑑証明書の添付が必要で、この書類は相続登記と不動産売却の両方で求められます。不動産を売却して現金で分ける換価分割(かんかぶんかつ)を選ぶ家庭も多く、共有名義のまま放置するより手続きが単純になります。相続した不動産の売却手続き全般は相続した不動産を売却する流れで解説しています。

換価分割を選ぶ場合は、売却代金を分ける前提を遺産分割協議書に明記しておくとトラブルを防げます。

売却の流れと必要書類|夫名義の不動産を手放すとき

相続登記が完了すると、不動産の名義が相続人に移り、ようやく売却の手続きに進めます。

相続登記後に必要な書類

売却の際は、登記識別情報(権利証に代わる書類)、固定資産評価証明書、相続人の印鑑証明書、本人確認書類などが必要です。遺産分割協議書も買主側の不動産会社や司法書士の確認に使われます。売却相場を把握したい段階では匿名査定を使って大まかな価格帯を調べる方法もあり、匿名査定・AI査定の精度と使い方で解説しています。

売却までにかかる期間

不動産会社への査定の申し込みから引き渡しまでは、数か月から半年程度かかることが一般的です。相続人が複数いる場合は、売却方針の確認や代金の分配方法まで決めてから媒介契約を結ぶと、後のトラブルを防げます。不動産売却全体の流れと費用は不動産売却の完全ガイドで解説しています。

相続登記が終わっていないと媒介契約を結べない不動産会社がほとんどなので、先に名義変更を済ませましょう。

売却にかかる税金と3000万円特別控除の期限

夫が死亡し、妻や子が自宅を相続して売却する場合、所有期間が5年を超えていれば譲渡所得税の税率は20.315%、5年以下なら39.63%です(いずれも復興特別所得税を含みます)。マイホームを売った場合は譲渡所得から最大3000万円を控除できる特例があり、適用を受けるには売却した年の前年および前々年に同じ特例を受けていないことが条件です。相続した家に相続人自身が住んでいない場合は、この特例の対象になるかどうか要件が異なるため、確定申告の前に税理士や税務署へ確認する必要があります。2026年9月時点の制度であり改正の可能性があるため、最新の要件は国税庁や専門家に確認してください。

譲渡所得税の税率(2026年9月時点)
所有期間税率(復興特別所得税込)
5年超(長期譲渡)20.315%
5年以下(短期譲渡)39.63%

出典:国税庁「土地や建物を売ったときの税金(譲渡所得)」(2026年9月時点)をもとに作成

3000万円特別控除は要件が細かく、相続人の居住状況によって使えるかどうかが変わるため早めに確認しておくと安心です。

夫名義の不動産に住み続ける場合の選択肢と名義変更

夫名義の不動産を売却せず住み続ける場合でも相続登記は必要です。配偶者居住権(民法1028条、2020年4月施行の制度)を使えば、建物の所有権を子に残しながら妻が引き続き住み続けることができ、将来の相続まで見据えた分け方の選択肢になります。相続登記を単独名義で行うか、兄弟姉妹や子と共有名義にするかは、その後の売却や管理のしやすさを左右する判断です。共有名義は全員の同意がないと売却できないため、将来的な手放しやすさを考えるなら単独名義のほうが扱いやすくなります。

共有名義のまま次の相続が発生すると、相続人がさらに増えて話し合いが難しくなるので注意が必要です。

空き家のまま放置する不動産のリスクと管理の注意点

遺産分割が長引き、住む予定も売る予定もないまま夫名義の家を放置すると、固定資産税の住宅用地の特例が外れるリスクがあります。特定空家等に市区町村長から勧告を受けた時点で特例の対象から外れ、固定資産税の負担が増えます。特定空家等に指定されただけでは特例は外れず、勧告を受けた時点が区切りになる点を混同しないよう注意してください。草刈りや建物の管理を怠れば近隣とのトラブルにもつながるため、売却の判断を先延ばしにしない方が安全です。相続した家を空き家のまま持ち続けている場合の売却手順は空き家売却の流れで解説しています。

固定資産税の納税通知書が届いた段階で特例の有無を確認しておくと、負担増に早く気づけます。

夫が死亡してから不動産を手放すまでの手続きは、次の順序で進みます。

1
死亡届の提出と戸籍の収集
死亡を知った日から7日以内に提出し、相続人を確定する
2
遺言書の確認と相続人調査
夫の戸籍を出生までさかのぼり法定相続人を確定する
3
遺産分割協議と協議書の作成
相続人全員で分け方を決め実印で合意する
4
相続登記(名義変更)
所有権の取得を知った日から3年以内に申請する
5
不動産会社への査定依頼
匿名査定や複数社の査定で売却相場を把握する
6
媒介契約・売買契約・引き渡し
相続人全員の合意のもとで契約を結び引き渡す

相続登記(4番目)を終えていないと、5番目以降の査定や契約に進めない点が実務上の大きな区切りになります。

よくある質問

夫が死亡した直後、不動産の名義変更をいつまでに行う必要がありますか。

相続登記は、相続による所有権の取得を知った日から3年以内に申請する義務があります。遺産分割協議が長引く見込みの場合は、相続人申告登記で義務を一時的に果たす方法もあります。

相続登記をしないまま夫名義の家を売ることはできますか。

できません。相続登記を済ませて相続人名義に変更しないと、不動産会社も買主も売買契約を進められません。

相続人同士で意見がまとまらない場合、売却はどう進めればよいですか。

遺産分割協議がまとまらなくても法定相続分による相続登記は可能ですが、夫名義の家を通常売却するには相続人全員の同意が必要です。話し合いがまとまらない間は、相続人申告登記で義務を一時的に果たしつつ話し合いを続け、まとまらなければ家庭裁判所の遺産分割調停を利用する方法もあります。

配偶者が住み続けたい場合、相続登記は不要ですか。

住み続ける場合でも相続登記は必要です。配偶者居住権を使えば、建物の所有権を子に残しながら妻が住み続ける選択肢もあります。

空き家にしたまま固定資産税だけ払い続けるとどうなりますか。

特定空家等に指定され、さらに市区町村長から勧告を受けると、固定資産税の住宅用地の特例が外れて税負担が増えます。早めに空き家の売却や活用を検討する必要があります。

夫死亡後の不動産相続を進めるために

夫が死亡したあとの不動産相続は、死亡届の提出から相続人調査、遺産分割協議、相続登記、そして売却までの手続きが連続しており、どこかで止まると次に進めません。相続登記には3年以内という期限があり、怠れば過料の対象にもなるため後回しにできません。ぜひ本記事で解説した手続きの流れと税金の注意点を参考に、相続人同士で早めに話し合いを始めてください。

出典

  • 法務省「相続登記の申請義務化について」
  • 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
  • 法務省「相続人申告登記について」
  • e-Gov法令検索「不動産登記法」
  • e-Gov法令検索「民法」
  • 国税庁「土地や建物を売ったときの税金(譲渡所得)」
  • 国税庁「マイホームを売ったときの特例」
あなたへのおすすめ