不動産売却の解約手付とは?金額相場と放棄・倍返しの注意点を解説
マンションや戸建ての売買契約を結んだ直後に、転勤の辞令や住み替え先の融資の否決で、契約をやめたいと相談する場面があります。解約手付は民法第557条で定められ、買主側から契約をやめるときは受け取った手付金を放棄し、売主側から契約をやめるときは受け取った手付金の倍額を買主に返す「手付倍返し」をすれば、契約を解除できます。
手付金の金額は売買代金の5〜10%程度が実務上の手付金の相場で、売主が宅地建物取引不動産会社の場合は宅地建物取引業法第39条により売買代金の20%を超えてはなりません(2026年9月時点)。
本記事では解約手付の金額の相場と、放棄・倍返しによる解除の仕組み、トラブルを避けるための注意点を解説します。
この記事はこんな方に向いています
- 自宅の売買契約を結ぶ段階で、手付金をいくら受け取ればよいか相場が分からず不動産会社の言い値に不安を感じている方
- 契約後に住み替え先の融資が通らず解約せざるを得なくなり、手付金の倍返しが必要になるか心配している方
- 相続した実家を売却する契約直前になり、買主から解約された場合に手付金をどう扱うべきか分からず戸惑っている方
はじめて知る「解約手付」の意味|不動産売却契約における民法上の位置づけ
不動産売却の売買契約では、契約と同時に買主から手付金を受け取るのが一般的です。この手付金は民法第557条が定める「解約手付(かいやくてつけ)」としての性質を持ち、契約を結んだ後でも一定の条件のもとで契約を解除できる権利を、売主・買主の双方に残す役割を果たします。
手付金には解約手付のほかに、契約の成立を証明する「証約手付」や、債務を履行しなかった場合の違約金として扱う「違約手付」という考え方もありますが、不動産売買で実務上使われる手付金は、特段の取り決めがない限り解約手付として扱われます。民法第557条は、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付金を放棄し、売主は手付金の倍額を払えば契約を解除できると定めています。
手付金の性質は契約書に明記されるので、受け取る前に「解約手付」と書かれているか確認しておきましょう。
不動産売却における解約手付の金額売却相場|売買代金に対する割合
解約手付の金額に法律上の下限はありませんが、不動産売買の実務では売買代金の5〜10%程度を設定するのが一般的です。この範囲なら、買主が解除を思い直す程度の負担になり、かつ売主にとっても解除された場合の実質的な補償として機能します。
ただし、売主が宅地建物取引不動産会社の場合は、宅地建物取引業法第39条により、受け取る手付金の額が売買代金の20%を超えてはならないと定められています(2026年9月時点)。個人間売買にはこの上限規定が適用されませんが、高額な手付金を求められた場合は、不動産会社に根拠を確認したほうが安心です。
マンション売却の場合の手付金額
マンション売却では、売買価格が2,000万円〜5,000万円台に集中するため、手付金の目安も100万円〜500万円程度になるケースが多く見られます。
戸建て・土地売却の場合の手付金額
戸建てや土地の売却では、立地や面積によって売買価格の幅が広く、手付金も数十万円から数百万円まで差が出ます。
売却価格3000万円の取引を例にすると、手付金と残代金の内訳はおおよそ次のようになります。
※売却価格3000万円・手付金を売買代金の5〜10%とした場合の概算例です(2026年9月時点)。
手付金は売買代金の5%から10%の範囲に収まるケースが多く、残代金は契約時ではなく引き渡し時に受け渡されます。
解約手付の金額は売却価格を基準に決まるため、まずは売却相場を把握することが欠かせません。不動産会社に依頼する訪問査定のほか、匿名査定やAI査定を使う方法もありますが、精度には限界があることを匿名査定・AI査定の精度で解説しています。利用する際の注意点は匿名査定のデメリットと注意点で解説しています。
手付金の割合は不動産会社と相談して決めますが、売却相場から大きく外れる金額を提示されたら理由を確認しましょう。
解約手付を使った不動産売買の契約解除|「手付放棄」と「手付倍返し」の仕組み
解約手付を使った契約解除には、買主側からやめる場合と売主側からやめる場合の2つの方向があり、それぞれ負担の形が異なります。
買主側から解除する場合|手付放棄
買主が自己都合で契約をやめるときは、すでに支払った手付金を放棄すれば契約を解除できます。住み替え先が決まらない、転勤先の事情が変わったなど、買主側の事情による解除では、手付金を取り戻すことはできません。
売主側から解除する場合|手付倍返し
売主が自己都合で契約をやめるときは、受け取った手付金と同額をさらに買主に支払う「手付倍返し」をすれば契約を解除できます。たとえば手付金200万円を受け取っていた場合、解除するには200万円を追加して合計400万円を買主に返す必要があります。
どちらの解除方法も、相手方が契約の履行に着手した後は使えなくなる点に注意が必要です。履行の着手とは、引き渡しの準備や登記(とうき)手続きの申請など、契約の実行に向けた具体的な行動を指します。
手付倍返しの資金を準備できない売主もいるため、売却を急ぐ事情があるときは契約前に資金計画を確認しておきましょう。
マンション売却で住み替え先の融資が通らないときはローン特約で手付金を守る
転勤に伴ってマンションを売却し、新居を購入する資金を住宅ローンでまかなう場合、ローンの審査に落ちると契約そのものが続けられなくなることがあります。このようなとき、解約手付の放棄とは別に「ローン特約(融資特約)」を契約書に盛り込んでおくと、買主は手付金を放棄せずに契約を解除できます。
ローン特約は、買主が期限までに住宅ローンの承認を得られなかった場合、手付金を全額返還して契約を無条件で解除できる取り決めです。マンション売却の契約を結ぶ買主の立場であれば、この特約の有無と期限を確認しておく必要があります。売主の立場であっても、買主がローン特約を使って解除した場合は手付金を返還する義務があるため、受け取った手付金をすぐに使ってしまうのは避けたほうが安心です。
ローン特約の期限は契約書に明記されるので、審査の結果が出る時期とずれていないか確認しておきましょう。
相続した実家の売却契約を買主から解約されたときの手付金の扱い
相続した実家を売却する契約では、買主側の事情で解除されるケースもあります。買主が手付放棄による解除を選んだ場合、売主は受け取った手付金をそのまま保持でき、新たに買主を探して売却活動を再開することになります。
不動産売却を進める事情は人それぞれで、離婚に伴う売却では査定書の取り方に注意が必要な場面もあります。この点は離婚で不動産の査定書が必要なときの取り方と注意点で解説しています。相続した実家の売却でも、住み替えのための売却でも、解約手付の仕組み自体は変わらず、契約書に記載された条件がそのまま適用されます。
ただし、履行の着手後に買主から一方的に契約を破棄された場合は、解約手付の放棄では済まず、違約金や損害賠償を請求できる場合もあります。トラブルが長引きそうなときは、早い段階で弁護士や宅地建物取引士に相談したほうが安心です。
相続した実家は売却までに時間がかかりやすいので、契約解除が起きても次の買主を探せるよう余裕を持った計画にしましょう。
手付金・内金・申込金と解約手付の違い
不動産売買の現場では、手付金のほかに「内金」や「申込金」という言葉も使われ、それぞれ性質が異なります。
内金は売買代金の一部を先払いするお金で、解約手付のような契約解除の効力を持ちません。申込金は、購入希望者が物件を確保する意思を示すために不動産会社に預けるお金で、契約前の段階で発生し、契約に至らなければ全額返還されるのが原則です。
解約手付は契約と同時に支払われ、契約を解除する権利とセットになっている点が、内金や申込金との大きな違いです。契約書を受け取ったら、「手付金」としてまとめて扱われていないか、解約手付としての性質が明記されているかを確認しておく必要があります。
申込金を払った段階ではまだ契約が成立していないので、解約手付のルールは適用されません。
不動産売買契約書で解約手付のトラブルを避けるための確認ポイント
解約手付をめぐるトラブルの多くは、契約書に書かれている条件を契約前に確認していなかったことから起こります。
手付金の金額、履行の着手の時期、ローン特約の期限、違約金の取り決めの4点は、契約書に署名する前に不動産会社へ確認しておきたい項目です。とくに履行の着手の時期は明確な基準がなく、トラブルになりやすいため、契約書上でどの行為を履行の着手とみなすか、具体的に書面化してもらうと安心です。
手付金を受け取る売主の立場であれば、受け取った手付金をすぐに使わず、解除や手付倍返しが発生した場合に備えて確保しておくことも大切です。
契約書の特約欄は読み飛ばされがちですが、解約手付に関する取り決めには目を通しておきましょう。
よくある質問
解約手付の金額に決まりはありますか?
解約手付の金額に法律上の下限はなく、不動産売買の実務では売買代金の5〜10%程度を目安にするのが一般的です。売主が宅地建物取引不動産会社の場合は、宅地建物取引業法第39条により売買代金の20%を超えてはなりません。
手付金を支払った後、買主の都合でキャンセルすると違約金も請求されますか?
履行の着手前であれば、手付金を放棄するだけで契約を解除できます。履行の着手後に一方的に契約を破棄した場合は、違約金や損害賠償を別途請求される可能性があります。
手付倍返しをする資金がない場合はどうなりますか?
売主が手付倍返しに必要な資金を準備できないと、契約の解除自体が難しくなり、買主との話し合いが長引く可能性があります。契約前に資金計画を確認しておくことが大切です。
住宅ローン特約と解約手付はどう違いますか?
住宅ローン特約は、買主の融資が承認されなかった場合に手付金を全額返還して契約を解除できる取り決めです。解約手付による解除とは異なり、手付金を放棄する必要がありません。
手付金はいつ・どのように受け渡しますか?
手付金は売買契約を結ぶ当日に、現金や銀行振込で買主から売主に支払われるのが一般的です。受け渡しのタイミングや方法は契約書に明記されます。
不動産売却の解約手付とは|まとめ
不動産売却の契約で受け取る解約手付は、民法第557条に基づいて、買主は手付放棄、売主は手付倍返しをすれば契約を解除できる仕組みです。金額の目安は売買代金の5〜10%程度で、宅地建物取引不動産会社が売主になる場合は20%を超えない範囲に定められています。ぜひ本記事の金額売却相場と放棄・倍返しの注意点を参考に、契約書の内容を確認してから売買契約を結んでください。
出典
- e-Gov法令検索「民法」(第557条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第39条)
- Wikibooks「民法第557条」
