世田谷区の店舗・事務所(事業用)を売却するには
「テナントが入ったままの店舗ビルを売れるのか」「事務所として使っていた自社物件、住宅と同じように査定してもらえるのか」——世田谷区で店舗・事務所などの事業用不動産の売却を考え始めると、住宅の売却とは勝手が違うことにすぐ気づきます。
事業用は、価格の決まり方(収益還元・土地値)、消費税、建物の遵法性、借主との関係など、住宅にはない論点が重なります。
逆にいえば、その論点を一つずつ整理していけば、判断の材料はそろえられます。
特別な才能や人脈が必要な話ではありません。
この記事では、世田谷区で店舗・事務所を売却するときの相場の見方(国土交通省の成約データを掲載)、エリアごとの需要の違い、価格の算定方法、消費税・譲渡所得の考え方、テナント入居中の扱い、売却の流れと費用までを、公的データを根拠に整理します。
記事監修者情報

株式会社グランクルー
代表取締役 加瀬 健史(カセ タケシ)
不動産業界歴20年以上宅地建物取引士
世田谷エリアを中心に不動産売却の実績500件以上。査定から引渡しまでの一連の実務に加え、相続・住み替え・離婚に伴う売却など、事情の異なる売主それぞれの相談に幅広く対応し、売却実務に多くの知見を持つ。
世田谷区の店舗・事務所(事業用不動産)売却で最初に押さえること
結論から言うと、店舗・事務所の売却価格は「その建物がいくらの収益を生むか」と「その土地がいくらで売れるか」の二つの物差しで決まります。
住宅のように「近隣の同じような家がいくらで売れたか」という比較だけでは決まりません。
世田谷区は住宅地が広がる区で、商業地は三軒茶屋・下北沢・二子玉川・成城学園前・千歳烏山といった駅前や、国道246号(玉川通り)・環七通り・環八通り・世田谷通り沿いに集中しています。
そのため事業用物件も、純粋なオフィスビルより、1階が路面店で上階が住居という店舗併用建物、小規模なテナントビル、住宅街の中の事務所使いの建物が多いのが実情です。
ここで重要なのが、事業用の成約データは住宅ほど公表件数が多くないという点です。
だからこそ、まずは同じエリアの土地・住宅の成約水準を押さえ、「土地としていくらか」を出発点に置く考え方が現実的になります。
次の表が、その出発点になる数字です。
| 物件種別 | 価格の中央値 | 参考㎡単価 | 面積の中央値 |
|---|---|---|---|
| 中古マンション | 約5,600万円 | 約93.8万円/㎡ | 約60㎡ |
| 一戸建て(土地建物) | 約8,900万円 | — | 約100㎡ |
| 土地(宅地) | 約9,200万円 | 約80.0万円/㎡ | 約120㎡ |
出典:国土交通省「不動産情報ライブラリ」取引価格情報・成約価格情報(2021〜2025年/世田谷区、18,253件)をもとに作成。
個別価格は立地・築年数・状態により変動します。
ここで使っているのは売り出し価格(広告に出ている価格)ではなく、実際に取引が成立した成約価格です。
売り出し価格は値下げ前提で高めに設定されることが多いため、手取りの目安を考えるなら成約ベースのほうが実感に近くなります。
また、平均値ではなく中央値を採用しています。
事業用エリアの取引は数億円規模の案件が混ざることがあり、平均値だと一部の大型取引に引っ張られてしまうためです。
土地(宅地)の中央値は約9,200万円、参考の㎡単価は約80.0万円です。
駅前商業地はこの水準より高く、住宅地の奥まった立地は下回る、という幅で捉えてください。
事業用は「収益」と「土地値」の両にらみです。
どちらか一方だけで話が進んでいるときは、もう一方でも計算し直すと判断がぶれにくくなりますよ。
世田谷区の事業用不動産の価格相場と推移(2021〜2025年)
土地値の水準感を掴むうえで、区内の価格が全体としてどう動いてきたかも押さえておきたいところです。
区内で最も取引件数が多い中古マンションの推移を見ると、価格帯の方向感がわかります。
| 年 | 価格の中央値 | 参考㎡単価 |
|---|---|---|
| 2021年 | 約5,200万円 | 約85.0万円/㎡ |
| 2022年 | 約5,400万円 | 約90.0万円/㎡ |
| 2023年 | 約5,700万円 | 約96.8万円/㎡ |
| 2024年 | 約5,800万円 | 約100.0万円/㎡ |
| 2025年 | 約6,000万円 | 約103.7万円/㎡ |
出典:国土交通省「不動産情報ライブラリ」(2021〜2025年/世田谷区・中古マンション)をもとに作成。
出典:国土交通省「不動産情報ライブラリ」(2021〜2025年/世田谷区・中古マンション)をもとに作成。
中央値は2021年の約5,200万円から2025年の約6,000万円へ、㎡単価は約85.0万円から約103.7万円へと推移しています。
事業用不動産の価格がこれと同じ動きをするとは限りませんが、区内の土地に対する需要が弱含んでいないことは、土地値ベースで価格を組み立てる際の材料になります。
一方で、建物としての事業用需要は用途によって差が出ます。
飲食・物販の路面店は人の流れに、事務所は駅からの距離と駐車場・搬入のしやすさに強く左右されます。
同じ世田谷区内でも、この事情がエリアごとに違います。
推移はあくまで区全体の傾向です。
同じ数字を自分の物件にそのまま当てはめず、最寄り駅・接道・用途地域まで落として見ることをおすすめします。
世田谷区の主要エリア別に見る店舗・事務所の需要の違い
世田谷区は23区の中でも面積が広く、駅ごとに商圏の性格が変わります。
事業用物件の買い手が「何に使うつもりか」はエリアでほぼ決まる、と考えて差し支えありません。
三軒茶屋・下北沢:小規模路面店の需要が厚いエリア
飲食・物販の個店が集まる商圏で、1階路面・十数㎡クラスの小さな区画にも借り手がつきやすい傾向があります。
テナント需要が読みやすいぶん、収益還元での評価がしやすいエリアです。
二子玉川・用賀:事務所・オフィス系の比重が高いエリア
大規模商業施設と再開発でオフィス需要が集まったエリアで、事務所としての利用を前提に検討する買い手が現れやすくなります。
駅からの距離が価格差に出やすいのも特徴です。
成城学園前・経堂・桜新町:住宅地に隣接する小商圏
クリニック、学習塾、士業事務所、美容・サービス業など、地域の住民を客とする用途が中心です。
飲食向けの排気・給排水設備が整っているかどうかで、買い手の幅が変わります。
千歳烏山・環七/環八・世田谷通り沿い:車利用前提の用途
駐車場が確保できるか、大型車の出入りができるかが評価を左右します。
同じ床面積でも、駐車スペースの有無で使える業種が変わるためです。
なお、世田谷区は第一種低層住居専用地域など用途制限の厳しい地域が広く分布します。
現在店舗として使えていても、建築基準法上は住宅の一部としての小規模な店舗しか認められない、あるいは既存不適格になっているケースもあります。
買い手の使い道を左右する点なので、売却前に用途地域と建物の適合状況を確認しておきたいところです。
「今の使い方が、次の買い手にも認められるか」は事業用でつまずきやすい点です。
用途地域の確認は早い段階でやっておくと安心です。
店舗・事務所の売却価格はどう決まる?収益還元・土地値・積算の考え方
事業用不動産の査定では、主に次の三つの見方が使われます。
収益還元法(賃料から逆算する)
年間の賃料収入から経費を差し引いた純収益を、期待利回りで割り戻して価格を出す方法です。
テナントが入っている物件、または貸せる見込みが明確な物件で使われます。
賃料が相場より高い契約が入っている場合、その賃料が更新後も続く前提で計算すると、実態より高い価格になってしまう点には注意が必要です。
収益物件全般の考え方は世田谷区の収益物件・一棟アパート売却|利回りでも整理しています。
取引事例比較(土地値から考える)
空き店舗・空き事務所、あるいは築年数の経った建物では、買い手が「解体して建て替える」前提で見ることが少なくありません。
この場合、価格の軸は土地値になります。
世田谷区の土地(宅地)の中央値は約9,200万円、参考㎡単価は約80.0万円ですので、面積と立地条件を掛け合わせて目安を作ります。
建物の解体費が見込まれる場合、その分は価格から差し引かれるのが一般的です。
積算(土地+建物の再調達価格)
金融機関が融資判断の際に重視する見方です。
買い手が融資を使う場合、積算評価が低いと融資額が伸びず、結果として成約価格が抑えられることがあります。
特に旧耐震基準の建物、検査済証がない建物は融資が付きにくくなる傾向があります。
築年数が経った建物をどう扱うかについては、築40年・50年の古い家は世田谷区で売れる?の考え方も参考になります。
雨漏りなど不具合がある場合の扱いは世田谷区で雨漏りする家は売れる?修繕せず売却で解説しています。
三つの見方で出した金額が大きくずれることはよくあります。
どの前提でその価格になったのかを説明してもらうと、納得感が違ってきます。
テナント入居中でも売却できる?借主がいる場合の進め方
テナントが入ったままでも売却は可能です。
賃貸借契約はそのまま買主に引き継がれ、オーナーが入れ替わる形(いわゆるオーナーチェンジ)になります。
この場合、借主の承諾を得なくても売買自体は成立しますが、実務上は次の点を整理しておく必要があります。
- 賃貸借契約書・覚書の内容(普通借家か定期借家か、更新条件、賃料改定の履歴)
- レントロール(賃料・共益費・入居時期・滞納の有無)
- 預り敷金・保証金の額と、買主への承継方法
- 原状回復の範囲、造作買取請求に関する特約の有無
- 建物の消防設備・防火管理の状況
逆に「空けてから売りたい」という場合、普通借家契約では貸主から一方的に契約を終了させることはできず、正当事由や立退料が問題になります(借地借家法)。
空室にしてから売るか、入居中のまま売るかは、期間・費用・価格を比べて判断することになります。
空室が多い賃貸物件の売り方については空室だらけのアパートを世田谷区で売る方法も参考にしてください。
なお、テナントや従業員、取引先に売却の動きを知られたくないという方は少なくありません。
物件情報を広く公開せずに買い手を探す方法もありますが、公開範囲を絞れば買い手候補も減るため、価格やスピードと完全に両立するわけではない点は正直にお伝えしておきます。
入居中の売却では、契約書と敷金の整理が価格交渉の土台になります。
古い覚書が残っていないか、書類を先に集めておくと話が早く進みます。
事業用不動産の売却にかかる税金と費用(消費税・譲渡所得)
事業用の売却で住宅と最も違うのが税金の扱いです。
ここは金額に直結するため、早めに把握しておきたい部分です。
消費税:建物部分が課税対象になり得る
土地の譲渡は消費税が非課税ですが、建物の譲渡は課税の対象です。
売主が課税事業者に該当する場合、建物代金に消費税が上乗せされ、申告・納付が必要になります。
売買契約書で土地と建物の価格を合理的に按分しておくことが前提となるため、契約書の作り方が重要です。
個人が事業用として貸していた物件を売る場合も、課税事業者に該当するかどうかで扱いが変わります。
判定は国税庁の案内および税理士への確認が確実です。
譲渡所得:居住用の特例は使えない
事業用不動産の売却益は譲渡所得として課税されます。
マイホームを売ったときの3,000万円特別控除は事業用には適用されません。
また、取得費は購入額そのままではなく、減価償却費を差し引いた後の金額を使う点に注意が必要です。
長年保有した建物ほど帳簿上の価値が下がっており、想定より譲渡益が大きく出ることがあります。
所有期間による税率の区分、事業用資産の買換え特例の適用可否については、事前に税理士へ確認してください。
売却時にかかる主な費用
- 仲介手数料(宅地建物取引業法で上限が定められています。詳しくは世田谷区の不動産売却、仲介手数料はいくら?)
- 売買契約書の印紙税
- 抵当権抹消の登記費用
- 測量・境界確定の費用(境界が未確定の場合)
- 解体費・残置物撤去費(更地渡しや、内装・什器が残っている場合)
店舗の場合、厨房設備や什器、看板などの残置物をどこまで撤去するかで費用が変わります。
物が多く残っている物件の扱いはゴミ屋敷を世田谷区で売却|片付けずに売る方法の考え方が参考になります。
減価償却後の取得費で計算すると、想像より税額が出ることがあります。
売却を決める前に税理士へ試算を頼んでおくと後悔が少ないです。
世田谷区で店舗・事務所を売る流れと、仲介・買取の選び方
進め方は住宅と大枠は同じですが、事業用では資料の準備が価格に直結します。
資料をそろえる
登記事項証明書、公図、測量図、建築確認済証・検査済証、建物図面、賃貸借契約書、レントロール、直近の収支、固定資産税の課税明細
査定を受ける
収益還元と土地値の両面で。まずは訪問なしの机上査定でも水準はつかめます
媒介契約を結ぶ
公開範囲(ポータル掲載の可否、テナントへの周知タイミング)をここで決めます
買い手を探す・交渉
投資家、事業者(自社利用)、開発業者など、想定する買い手層で戦略が変わります
売買契約・引渡し
敷金の承継、賃料の日割精算、消費税の按分を契約書で明確にします
時間をかけてでも価格を追うなら仲介、期日が決まっていて着実に現金化したいなら買取、という整理になります。
買取は市場価格より低くなるのが一般的ですが、公開せずに完結できるため、周囲に知られる範囲を狭めやすいという面もあります。
判断の材料は仲介と買取どっちがいい?世田谷区で現金化するにまとめています。
世田谷区外にお住まいで現地に足を運びにくい場合は、遠方に住みながら世田谷区の実家を売却する方法の手順も応用できます。
事業用は資料の揃い方で買い手の評価が変わります。
検査済証や賃貸借契約書が見つからない場合も、早めに相談いただければ代替の進め方を考えられます。
世田谷区の事業用不動産売却に関するよくある質問
Q テナントに知られずに店舗ビルを売れますか?
A 売買自体は借主の承諾なしに成立するため、契約段階まで知らせずに進めること自体は可能です。
ただし、引渡し後は貸主が変わる通知が必要になります。
また情報の公開範囲を絞ると買い手候補が減るため、価格やスピードとのバランスを見て決めることになります。
Q 空き店舗のまま売るのと、テナントを入れてから売るのはどちらが有利ですか?
A 一概には言えません。
賃料が相場並みで安定した借主が付いていれば収益還元で評価されやすくなりますが、賃料が低い長期契約が残っていると、かえって価格を抑える要因になることがあります。
土地値で評価される立地なら、空きのほうが買い手の使い道が広がる場合もあります。
Q 世田谷区の土地の相場はいくらくらいですか?
A 2021〜2025年の成約データでは、土地(宅地)の価格の中央値が約9,200万円、参考㎡単価が約80.0万円、面積の中央値が約120㎡です(出典:国土交通省「不動産情報ライブラリ」)。
駅前商業地はこれを上回り、住宅地の奥まった立地は下回る幅で考えてください。
Q 建物に消費税がかかると聞きました。
個人でも対象になりますか?
A 土地は非課税、建物は課税対象です。
個人であっても、事業として不動産を貸していて課税事業者に該当する場合は納税義務が生じます。
判定は課税売上高などによるため、国税庁の案内を確認のうえ、税理士へご相談ください。
Q 検査済証がない建物でも売れますか?
A 売却は可能ですが、買い手が融資を利用しにくくなったり、増改築や用途変更の際に支障が出たりする可能性があります。
結果として買い手層が絞られ、価格に影響することがあります。
図面や過去の工事記録など、代わりになる資料を集めておくと交渉がしやすくなります。
Q 店舗の内装や厨房設備は撤去してから売るべきですか?
A 次の借主・買主が同じ業種で使うなら、設備が残っているほうが評価される場合があります。
逆に建て替え前提の買い手には撤去費用が差し引かれます。
どの買い手層を想定するかを決めてから判断するのが合理的です。
Q 売却の相談だけでも可能ですか。
今すぐ売る予定はありません。
A 相場の確認や税務の見通しだけの相談も一般的です。
事業用は契約関係や税金の整理に時間がかかるため、売る時期が決まる前に情報を集めておくほうが、選択肢を残しやすくなります。
世田谷区の店舗・事務所売却で押さえるべきポイント
世田谷区の事業用不動産は、収益還元と土地値の二つの物差しで価格が決まります。
土地値の出発点になるのが、2021〜2025年の成約データにおける土地(宅地)の中央値 約9,200万円・参考㎡単価 約80.0万円という水準です。
区全体では中古マンションの中央値が2021年の約5,200万円から2025年の約6,000万円へ推移しており、土地需要が弱含んでいないことも判断材料になります。
そのうえで、事業用特有の論点——用途地域と建物の適合状況、検査済証の有無、賃貸借契約と敷金の承継、建物部分の消費税、減価償却後の取得費で計算する譲渡所得——を一つずつ潰していけば、売る・売らないの判断材料はそろいます。
次の一歩としては、まず登記事項証明書・賃貸借契約書・確認済証など手元の資料を確認し、訪問なしの机上査定で収益と土地値の両面から水準を出してみることをおすすめします。
あわせて、価格を追うか期日を優先するかで仲介と買取の違いを、費用の見通しで仲介手数料の目安を、賃貸中の物件なら収益物件・一棟アパート売却の考え方を確認しておくと、判断がぶれにくくなります。
事業用は準備に時間がかかるぶん、動き出しが早いほど選べる道が広がります。
まずは資料の確認と相場の把握から始めてみてください。
出典・参考
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」(取引価格情報・成約価格情報/2021〜2025年・世田谷区)
- 国税庁「譲渡所得(土地・建物などを売ったとき)」
- 国税庁「消費税(課税・非課税の取扱い)」
- 宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)
- 借地借家法(e-Gov法令検索)
- 建築基準法(e-Gov法令検索)
- 世田谷区 公式ホームページ(用途地域・都市計画情報等)
税務の適用可否は個別事情により異なります。
実際の申告にあたっては税理士または所轄税務署にご確認ください。
